天照守戦後、獣狩の告白と初夜 《R18》
(2023年3月25日Pixiv投稿分の加筆修正版)


 天照守が再度湊に襲来し、地に降り立った獣の元へ向かう為、飛蔓へ手をかけた獣狩が少し考え込むような顔をしたのち、氏繁の方へ近づくとそのまま唇を重ねた。
「な!? お前さん何を」
「生きて帰ることが出来たら伝えたいことがある。後ろは任せた」
「──ま、任せろ。生きて、必ず生きて帰って来い!!」

 湊を舞台にした獣との激闘は、見事獣狩が天照守を打ち倒した事で幕を閉じた。

 まだ天照守に破壊された傷痕が残るが、活気を取り戻しつつある湊の物見台で獣狩と氏繁がいつもの様に並んで湊を眺めていた。
「海に落ちた時は肝を冷やしたぞ、よく生きて帰った…よかった…」
 噛み締めるように呟く氏繁の顔を獣狩がまっすぐに見つめている。
「氏繁、生きて帰ったら伝えたいと言っていた事なのだが」
「お、おう、何だ」
「お前が欲しい」
「!?」
「今夜、私の家で飲まないか?」
「……行ってやらんこともない…」
「待っている」
 顔を逸らした氏繁に獣狩が小さく笑って頭を下げると。そのまま物見台から下りて行った。

 物見台から下りた獣狩の足は自宅ではなく湯屋へ向かっていた。受付台から獣狩の姿を認めた玉かづらがほほ笑む。
「いらっしゃい。温まっていくかい?」
「いや、今日は相談があって来た」
「それは珍しいね。どうしたんだい?」
「今夜初めて男を抱く…予定なのだが、もし相手が応えてくれるならこれでもかと大事にしてやりたい。何を用意すればいいだろうか?」
 てっきり薬湯の相談かと思っていた玉かづらは一瞬きょとんとした後、至極真面目な顔でまっすぐ見つめてくる獣狩を見てにっこりと笑顔を浮かべる。
「そうだね、用意しなきゃいけないのは、解す油かな」
 背後の棚下の引き出しから小瓶を一つ取り出すと、獣狩の方へ差し出す。それを受け取った獣狩の手を玉かづらが両手で包む。
「どれだけ辛くても我慢して、相手の様子を見ながらしっかり解してあげて。怪我、させたくないでしょ?」
 がんばってね、とほほ笑んで手を離した玉かづらに大きく頷いて獣狩は湯屋を後にした。途中、烏筒屋に立ち寄り、紅玉におすすめの酒を選んで貰い購入すると自宅へ向かった。

 物見台にひとり残された氏繁は、顔を真っ赤にしながら頭を抱えていた。
「(嫌な気はしなかった……胸の高まりが収まらぬ…。欲求不満なのか? いや今まで他の男相手にこんな事になったことは無い。出会ってから次々と強大な獣を屠っていく姿を見た時から、羅雪の長を打ち倒したあの時から、あやつのことが気にかかって仕方がなかったのは嫉妬の為だけだと思っていたのに……まさか恋慕も含まれていたとでも言うのか? こんな、右手左脚の動かぬ俺なんぞに…なんの冗談なのか)」
 悶々と考えていると陽が傾きだしている。大きく息を吐くと、氏繁も物見台を後にした。

 物見台から氏繁がまっすぐに向かったのは湯屋だった。
「おや? そんなに顔を赤くして、酔っているなら入っていくのはお勧めしないよ?」
「風呂に入りに来たのではない。お前さんに相談があって…だな…」
 歯切れの悪い氏繁に玉かづらがおや?という表情になる。
「……今夜…閨に誘われて…だな。どうも俺が…だ、抱かれる…らしい…のだが、やり方は知っているが経験がなくてな…。あやつに恥をかかせるわけにいかん。具体的に何を用意すれば良いのか…。あと、その…どう準備していったらいいものなのか…をだな…」
 先程ここへ立ち寄った獣狩の事を思い出しながら、顔を真っ赤にして助けてくれと全身で訴えてくる氏繁に玉かづらが優しくほほ笑む。
「解す必要があるのは分かるね? これを使うといいよ」
「かたじけない…」
 獣狩に渡したものと同じ小瓶を取り出して氏繁に手渡す。
「あと…」
「あと?」
「はじめての時は本当に大変だから怪我しない様に、出向く前に自分でできるだけ解していった方が良いと思う。きっとその人も怪我しないようにちゃんと解してくれると思うけれど」
「──お、おう」
 みるみる爆発してしまうのではないかという程に顔を真っ赤にし、しかめっ面になっていく氏繁が面白く、玉かづらは小さく笑ってしまう。自分を頼ってくれた事に嬉しさを感じながら、今夜の二人がうまくいくことを願って、湯屋を後にする氏繁の背中に手を振った。

 陽が落ち、夕陽の赤い余韻も消えて夜。氏繁は獣狩の家の戸の前で声をかけた。
「来たぞ、大将」
 階段を上がる忙しない音が聞こえると、しばし間をおいてゆっくりと戸が開く。
「来て、くれたのか」
「そりゃあお前の誘いだ、来るに決まっているだろう」
 自分を出迎えた獣狩が嬉しそうなのがこそばゆく、迎えられた氏繁の顔も思わず綻ぶ。
「下に酒とつまみを用意してある」
「お、準備が良いな、早速頂くとするか」
 階下へ移動し、火の近くに用意されたふたつの円座にそれぞれ座ると杯を交わす。
「うまいな! お前さん稼いでいるのもあっていい酒を飲んでいるではないか」
「普段は飲まない」
「え」
「烏筒屋で勧められたものを買ったんだ。氏繁の口に合ったのなら、それは良かった…」
 嬉しそうに微笑んで視線を向けてくる獣狩に氏繁がどきりとする。
「…………いつもはもっと安い酒を飲んでるからな、味わって飲ませてもらうとしよう」
「なあ、氏繁」
「ん? あ──」
 氏繁が杯を空にして床に置いた時、空いた手を獣狩が掴んだ。掴まれた手から視線を上げると獣狩と目が合う。
「なん…だ」
「私は今夜お前を抱きたい」
「……ああ、分かって、ここに居るぞ?」
「何かあっても途中で止まれる自信がない」
「?」
「途中で止めてくれと抵抗されても止まれる自信がない」
「なっ」
「だから、最後にもう一度確認したい。いいのか、と。気が変わったなら、その酒を持って家に帰ってもらって構わない。明日からは今まで通りにする。だから──」
「ば、馬鹿者!! こちらとて覚悟を決めてここにおるのだ。何故今更そんなこと聞く!?」
「氏繁はなんだかんだ優しいからな。私の我儘に合わせてくれることも有るかもと…」
「何を言うか、そんなお前の気持ちを蔑ろにするようなことはせん!」
「それは……嬉しいな」
「それこそ、お前はおなごも若人も選びたい放題だろうに、なぜこんな…こんな俺なんかを…」
「氏繁が良いんだ。初めて会ったときからずっと……」
 そのまま獣狩が氏繁に近づき唇を重ねると、獣狩の手が伸び氏繁の身体を抱き寄せた。お互いの体を弄りながら息が上がってゆく。
「はぁ…はぁ…寝床に運んでも良いか?」
「重いぞ?」
 氏繁を抱えて寝台へ運び優しくおろすと、獣狩がゆっくりと氏繁の着物を脱がしていく。現れたのは、現役時代程ではないのだろうが無駄な肉の少ない身体だった。右腕と左脚の大きな傷をはじめ、身体の各所に傷痕が見える。左足の無機質な義足と生身の身体の対比に獣狩が息を飲んだ。
「…これも、外さねばな」
 獣狩にしげしげと身体を眺められて顔を赤くした氏繁が上体を起すと、片手で義足を器用に外していく。
「お、俺ばかり脱がせおって、お前も脱がんか!!」
 赤い顔の氏繁に急かされ小さく噴き出した獣狩が着ていた服を脱ぎ捨てる。下から現れる若く逞しい身体に氏繁が息を飲み、裸で向き合う頃には氏繁の顔が一層赤くなっていた。

 寝台の上で改めて見つめ合い、唇を重ね、体をひとつに重ねる。お互いの性器を触りながら、それぞれの身体についた傷痕を確かめ合うように抱きあう。獣狩の手が氏繁の後孔にのびたとき、そこが柔らかく湿っている事に気づき氏繁の顔を覗き込んだ。
「だから言ったろう? 覚悟を決めて来ておると。 …手加減はして欲しいが、好きにしてくれて構わん。何せ初めてでよくわからんからな」
 此時の為に、獣狩の為に、事前に自分で後ろを解したののだろう氏繁を想像して獣狩の性器がずぐんと一層立ち上がる。後孔には指一本つぷんと抵抗なく飲み込まれ、油を足しながら二本と増やしていく。苦しそうな氏繁に自分で初めてした時はもっと大変だったろうと愛おしさが増していく。
 獣狩は氏繁が口を塞ぐのに使っている左手を優しくどけさせると、自分の手を重ねて氏繁の性器を上下に扱く。その動きと合わせる様に後ろをゆっくりと解していく。見下ろす氏繁の体に興奮から傷痕が赤く浮き上がってきたのを確認して獣狩の興奮が高まる。
深く呼吸をしながら欲望のままに襲ってしまいそうになるのをなんとか抑える。まだ指が二本馴染みだしたところだ。まだ耐えなければいけない。喘ぎ混じりに氏繁から呼ばれ、顔を近づけると唇に吸い付かれた。
「おまえの、さわらせてくれんか? おればかりではわるい」
 そんないじらしくせがまれれば応えないわけにはいかず、胡坐をかいて氏繁を抱き寄せ体に抱きつかせると、獣狩は背中から手を回して後孔を解しながら、体と体に挟まれるそれぞれをお互いに扱く。
「これが俺の中に入るのか…? まあ俺の尻が裂けたところで湊の者たちに大きな迷惑はかからんが」
「…しっかり慣らすのでそんなことにはならない」
「ふふ、そうか…つらそうだな、わるい…」
 獣狩の頬に快楽と熱でとろんとしている氏繁が顔を寄せる。氏繁の熱い息が頬や首筋に当たる上、耳元で快感に翻弄されながら獣狩の名前を呼ぶ氏繁の声に獣狩のそれがまた大きくなる。
「すまん…おまえのゆびがきもちよぅて、手がうまくうごかせん。どうだ良いか? だいじょうぶか」
「ああ…」
 何度も唇を重ねながら舌を絡ませる。荒い息と湿った音が響く。指が三本根本までじっくり入るようになる頃には氏繁は絶頂して息があがってしまっていた。ぐったりと獣狩にもたれかかっている。
「氏繁、大丈夫か?」
「おまえの、ほうこそ…よゆうなさそうな顔しおって。がまんさせてすまんな…もうそろそろいいんだろう?…きてくれ」
 ゆっくり氏繁を寝床に寝かせると尻の下に枕を入れ込む。両腿を開き、解れた後孔に先端をあてがう。
「いくぞ」
 ゆっくりと亀頭が入っていく、氏繁が圧迫感から息を止めてしまっていたので頬に手を添えながら呼吸を促す。
「おまえ、の、あついな」
「っ…痛くないか?」
「くるしい、が、だいじょうぶだ」
 ゆっくり、ゆっくりと腰を進め、何度か途中で達しそうになるのを逃しながら、我慢に我慢を重ねた獣狩は遂に自身を氏繁の中に根本まで収めることができた。
「…入った、ぞ」
「腹が変な感じだな。…お前がここに収まっとるのか…そうか…そうか…きもちいいか? どうだ?」
「ああ。これは、気持ち良すぎて苦しい位だな…」
「ははは、俺も先程そうだったな」
「動いても大丈夫か?」
「……その前にちょっと近う」
「ん?」
 覆いかぶさるように顔を近づけた獣狩に、氏繁が左手と右足で抱きつく。氏繁が抱きつくために力んだことで中が締まって獣狩が唸った。
「はぁ…この体ではお前に満足にしがみつくこともできんな。動くことなぞ難しいか…なあ…腹の奥がうずいて変なのだ、お前の好きに動いてくれ」

 この後、獣狩は散々氏繁を抱き潰して朝を迎えた。そのまま寝台で二人微睡んでいると、氏繁に用のあるらしい湊の住人に訪問されてしまい目を白黒させて対応する獣狩と、それを寝台の上で笑って見守る氏繁がいた。

「獣狩さんこんにちは。ここに氏繁さんが居るかもって聞いてきたんだけど、まだ居る?」
「さ、昨夜酒を一緒に飲んでたら酔い潰れてしまってな、まだ寝ているから後でも良いか?」
「急ぎの用でもないし大丈夫。氏繁さんには明日烏筒屋に顔出してって伝えて〜」
 手を振って遠ざかっていく住人を見送り、大きく息を吐いて寝台の方へ戻ってくる獣狩を氏繁が笑って迎える。
「立てん。悪いが一日ここにいさせてくれ」
「申し訳ない…」
「謝ることはないだろう。気持ち良くなかったか?」
「気持ち良くなければ、抱きつぶしたりしない」
「なら良かろう。……俺も良かったしな」
「それは、嬉しい。…玉かづらにお礼をしないと」
「何故?」
「初めてだったからな、彼に相談したんだ。怪我をさせずに済んだのも彼のお陰だ」
「そ、そう…か」
「どうした?」
「俺も礼をせねばいかんなと思ってな。俺も、相談したのだ……」
「え?」
 獣狩が氏繁の方を向くと、顔を真っ赤にして顔を覆っている。氏繁が自分の為にしてくれたことが嬉しく、獣狩はその体を抱きしめた。
「氏繁…」
 耳元で囁かれ、氏繁の脳裏に昨晩の最中のことが思い出されて下腹が疼く。
「うぅ…今は勘弁してくれ…」
「しかたない。残念だが我慢しよう」
「立てるようになったらな」
「一緒に横になるのは?」
「それくらいは良いに決まっておるだろう」

 狭い寝床と獣狩の家に二人の笑い声が響く

〈終〉

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