氏繁さんが抱える劣等感と、それでも獣狩の為に頑張る話《R18》
(2023年4月4日Pixiv投稿分の加筆修正版)


「あのおなごの所で朝まで居てやれば良いものを…」

 戸越しに聞こえる氏繁の声に思わず獣狩が戸を開くと、そこには左手で頭を抱え俯く氏繁がいた。

 遡ること数刻、獣狩は依頼の報告の為、依頼人の所に出向いていた。依頼人は若い女で獣の素材の納品依頼だった。依頼内容の素材と数量に相違がない事を確認すると、報酬はこちらで渡すと細い路地に誘われた。そこで女の手が獣狩の体に絡む。
「ねぇ、アンタいい人はいるのかい?」
 路地の近くに他の人影はなく、女が獣狩に抱きつくようにして体を押し付けてくる。
「あたしアンタの子種が欲しいんだ。今夜どうだい?」
 獣狩が断ろうと口を開こうとした時、聞き覚えのある特徴的な足音がした。獣狩が思わずそちらへ顔を向けようとすると女に頬を挟まれ、女の方へ無理やり顔を向かされる。
「まさか本当に男にしか興味無いのかい? あんな自分で腰を振れない男より絶対満足させてあげられるよ?」
 女の手が獣狩の首へまわされる。
「……悪いが」
 獣狩が自身の体に絡んでいる女の腕を丁寧に解き、女と距離をとる。
「私が慕っている者を侮辱するような女とは寝られんよ。すまないが、他を当たってくれ」
 女に頭を下げると、獣狩は足音の主を探して歩き出した。

 先程の足音の主、氏繁はいつも以上に己の身体の不自由さに怒りを感じていた。早く進みたいのに気だけ急いて思ったように付いて来ぬ義足に顔を顰める。流石にもう体の一部と言ってよいほど馴染んだ義足で転ぶことは無いが、いつもより音を鳴らしながら進む。
 氏繁の心が乱れている理由は、先程耳にしてしまった獣狩に迫っていた女の言葉だった。なんとも複雑ではあるが、獣狩が女に迫られていることは仕方がないなという気持ちが勝っている。獣狩はあの体躯に仕事のできる男だ。おなごにもてないわけがない。また若い衆の向ける熱い視線を見つけたことも何度でもある。そんな、誰からも求められるような男が自分のような者を……何かの間違いであろうと未だに思っている。だから何よりもあの女の言葉は、獣狩の優しさに甘えて直視しないようにしてきた…ずっと氏繁が負い目に感じているところを見事に刺し貫いた。やはり獣狩も時には奉仕されたい時もあるだろうし、何より女であれば自分と違って子を成せる。それは先の湊の為にもなるだろう──…
 悶々と考えながら歩みを進めて、気が付くと大門前に辿り着いていた。氏繁は丁度良いと湯屋へと足を進めた。
「相談事が有るのだが、今大丈夫か?」
「うん。他の人はさっき帰ったから今は貴方だけだよ。獣狩さんに関係することかな?」
「ま、まあ…な」
 周囲を気にする氏繁に玉かづらが声を掛けると、顎を掻きながら受付台へ近づいてくる。
「何かあったの? 僕からみて上手くいってると思っているけれど」
「上手く…いっておるかは俺にはわからんが…。今日は体の不自由な俺でもなんとかあいつを気持ち良くさせてやれんかと思うてな。何か案は無いかと」
 不自由な体の所為もあり、氏繁はいつも獣狩に快楽を与えられてばかりだと引け目を感じていた。もし次に抱かれる事があるのなら少しでもなにか返してやりたい、その気持ちが強くなっていた。獣狩にはもっと相応しい相手が居るだろうと思うのに、こんな自分を獣狩が好いてくれていることが信じられないと未だに思っているくせに、こうして何かしてやりたいと思う己を顧みて、身を引く選択は出ないのだなと乾いた笑いが漏れる。
 あの後獣狩がどうしたかは知りたくないが、おそらく今夜訪ねてくることは無いだろう。ここで何か助言が得られるなら、今夜はひとり酒でも飲みながら悶々と悩む時間にでも当ててしまおうと氏繁が受付台に左腕を置いて身を乗り出す。
「彼は今の貴方を受け入れてくれていると思うけれど…。そうか、そうだね、貰ってばかりで返せているか不安になることもあるか。なら…」
 そう言って玉かづらが、取り出したのは薬包だった。
「これは?」
「媚薬だよ」
 玉かづらの言葉に氏繁が目を見開く。
「そこまで強力なものではないよ。飲んでから効くのに半刻程かな。いつもと違った感じになるし、積極的になれる助けになるんじゃないかな」
 差し出された薬包を受け取り、氏繁が指でつまんだそれをまじまじと眺める。
「あとは、どういう風に動くかってことだね。……踏み込んだことを聞くけれど、基本彼が動いてくれてるってことだよね?」
「お、おう」
「貴方が上に跨がる体位とか、支えてもらって動いてみるとかならどうかな。勿論無理の無い範囲で。あと口で咥えたことはあるかい?」
「え、あ、いや、無い」
「お互い?」
「ああ」
「じゃあそれもしてみてもいいかも。咥えるのは気持ち悪くて受け付けない人もいるみたいだから、その時は無理しなくていいと思うよ」
 玉かづらの話を聞きながら、色々と想像して顔を赤くしている氏繁が頭を下げる。
「その…すまんな、こんなことを相談できる相手が他に居ないとはいえ、お前に甘えておる」
 氏繁の言葉に驚いた顔をした後、すぐに玉かづらはにっこりと笑って
「構わないよ。人の役に立てるって言うのは悪い気分じゃないしね。それ、一人のときは絶対飲んじゃだめだよ。鎮めるの大変だから」
「承知した」
 玉かづらに何度も礼を言い湯屋を後にすると、氏繁は自宅に帰り戸を閉め盛大にため息をついて立ち尽くす。手の平に乗る薬包を見下ろしてまたため息をついた。
 その時
「氏繁、いるか?」
 獣狩の声が戸の向こうから聞こえ、思わず手の中の薬包が落ちる。
「な、何の用だ?」
「お前を探してたんだ。入れてくれないか?」
「っ……」

 ここで、冒頭に戻る。

 獣狩が近づこうとすると、氏繁が一歩下がった。あの場面を見られてしまっていた事に後悔をし、おそらく女の言葉も聞かれていたかもしれないと思うと、元来自分の体のことで引け目を感じている氏繁がどう受け取ってしまったか不安になる。
 後ろ手に戸を閉めて、顔を見せてくれない氏繁にどう切り出したものかと獣狩が悩みつつ声を掛ける。
「あの女に誘われたことは事実だ。たがそれ以上は何もない。私には氏繁がいるからと断った」
「こんなまともにお前に奉仕してやれん男でもか?」
「私は氏繁を好いているし、氏繁以外眼中にない。身動きが取りにくいことは重々承知の上でこの関係をもったし、お前に気持ち良くなって貰えているのがとても嬉しい。私も気持ちいいし満足しているよ。それでは不安か? それとも何か不満があるのか?」
 獣狩の言葉に「不満などあるものか!」と氏繁が勢いよく顔を上げる。しかし獣狩と目が合うとおずおずと顔をそらし苦虫を嚙みつぶしたような顔になる。
「…俺の…気持ちの問題…だ。いつもお前さんに貰ってばかりで何も返せていない気がしておるのだ。それは、やはり申し訳なくて…だな…」
「それは……ん? これは」
 氏繁の言葉の途中、獣狩が氏繁の足元に落ちている薬包に気づき、近づいて拾い上げる。
「そ、それは、こっちへよこせ!」
「なんだ、どうした?」
 驚きながらも素直に氏繁に拾い上げた薬包を手渡す。
「……なあ、このまま抱いてくれんか? これと、あと試したいことがある」
「? 構わないが…」
 獣狩の承諾を確認すると、氏繁は水場に行って包を開くと中の薬を飲み振り返る。
「よし、寝間着に着替え…いや、すぐ脱ぐことになるか」
「確かに」
 二人で小さく笑うと、お互い服を脱いでいく。獣狩は氏繁が脱ぐのを手伝ってやり、氏繁も獣狩が防具を外すのを手伝う。時折獣狩が氏繁の頬へ唇を寄せると氏繁はそれにいつも以上にどきりとして、自分の頬に手を当てる。
「(熱い…薬の所為か…?)」
 頬が赤く自分の頬に手を当て怪訝そうな氏繁に、獣狩が心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫か? 熱でもあるのか?」
「ん…大丈夫だ」
 すこしとろんとしているようにも見える氏繁へ獣狩が手を伸ばすと、獣狩の手に頬を預けかすかに笑う氏繁の赤らんだ頬や目元が扇情的で獣狩は目が離せない。ついにお互いに下着姿になると寝台へ移動して二人して腰かける。
「上手くできるかわからんが、今日は俺が動いてみようと思っておる。不慣れゆえ迷惑をかけるが付き合ってくれ」
「そんな。改まって…」
 そう宣言すると、氏繁は寝台に座った獣狩の股の間に移動した。
「氏繁!?」
「大人しくしておれ、動くと噛んでしまう」
 下着を下げ獣狩の陰茎を取り出すと、少し固くなっているそれを躊躇なく口に咥えた。過去抱いた女がしていた様に舌を絡ませ上下させる。何処をなぞられ気持ち良かったか、歯をたてぬように大きく口を開けながら舌でその凹凸をなぞる。どんどん硬さを増すそれが質量も増してなかなか長く咥えられない。左手で竿を扱きながら、亀頭の部分にも唇で吸い付き舌を這わせる。
「ひもちいいか?」
「っ…ああ…」
「ほれは…ひょはった」
 濡れた音と荒い呼吸音が続く。
「…氏繁」
「ん?」
 獣狩の手に優しく頭を撫でられ、氏繁が顔を上げると、嬉しそうに見下ろす獣狩と目が合う。
「私にもやらせてほしい」
「ひぇ?」
「ほら、義足外して、こっちで寝転がって」
 獣狩に促されるまま、義足を外し、寝台の上に移動する。お互い頭の位置を逆にして寝転がり、お互いの陰茎を咥える。獣狩が氏繁の陰茎を手で扱きながら竿を舐め、咥えて舌でも扱く。氏繁も負けじと咥えるが、粘膜に陰茎が包まれる久しぶりの快感に腰が震えてしまう。
「氏繁、後ろ、触って良いか?」
「っ…頼む」
 獣狩が後孔に手を伸ばすと、まだきついものの既にそこは蕩けていて指を一本容易に飲み込んだ。
「氏繁、さっき飲んでいた薬…」
「いま…は、気にするな」
「…わかった」
 入念に後孔が解し終わったころ、氏繁が上体を起こした。
「お前さんはそのままで。膝を立ててもらってもいいか」
 獣狩の膝を支えに上に跨ると、氏繁が獣狩の陰茎を後孔に押し付けゆっくり飲み込んでいく。途中前立腺に当たって大きく体が跳ねた際に力が抜けてしまい、一気に腰を落として貫かれる形になってしまった。
「っつ…嗚呼…っ!!」
 そのまま達してしまったようで、痙攣して絡みついてくる肉壁に獣狩が唸る。
「…だ、大丈夫か?」
「あっ……ん……、あ、ああ、ちょっとまっておれ」
 氏繁は何度か快感を落ち着かせるために深呼吸すると、獣狩の膝を支えに上下に動きだした。
「っく…、はは、な、なんとか、動けるもんだな…。すまんな、あまり早くは動けんのだ、どうだ、きもちいいか?」
「とても、良い。何より眺めが」
「は?眺め?」
「繋がってる所がよく見えるのと…うねる腰が扇情的で…」
「くわしく言わんで良い!」
 実際出し入れする度にめくれる肉に、獣狩の目は釘付けだった。無駄な脂肪の無い背中に、いくつもある傷跡が興奮からうっすらと赤く浮かび上がっている。自分の膝に抱きつくようにして支えにし、上下に動いている氏繁の背中や腰のうねりを見ているだけで生唾がでてくる。己が動くのとは違うゆっくりとした動きは中の肉壁の動きをしっかり感じることができた。なにより、恐らく先程飲んでいた薬のせいだろう、絡みつく肉壁がいつもより熱く気持ちいい。時折氏繁が達しそうになって中が痙攣する度に獣狩も達しそうになる。
「すこし、ぐあいがわかってきた、な」
 そう氏繁が呟くと、力んで獣狩のモノが抜ける寸前まで腰を上げると、中を締め付けたまま一気に腰を下ろした。
「──ひっ、あぁっ!!」
「う、氏繁っ!」
 膝をガクガクさせながら、また同じように腰を上げ、一気に下ろす。
「そ、そんな、無理しなくとも」
「いいや、こ、今夜はやらせて、もらう」
「この頑固者! っく、ぅ…」
 何度目か氏繁が動いた時、獣狩が我慢しきれず、しかも抜くこともできず氏繁の中に精液を吐き出した。今まで何度も氏繁を抱いてきたが負担を避けるために外に出していたため、初めての中出しだった。
「──あ…あぁ…あつい…たっしたのか……。まだ出ておるな、ふふっ…良かった…逝かせられたか、俺でも…。いつも俺ばかりだからなぁ…。それにしても、きもちようなってもらえるのは、うれしいものだな…。お前が言っている意味が今よく分かったぞ」
 獣狩の膝に抱きついて、獣狩を振り返る氏繁が上気した顔で心底嬉しそうに笑う。
「…氏繁、こちらに向いて跨がれるか?」
「ん? ああ、ちょっとまっておれよ…」
 獣狩の手に支えられながら氏繁が体勢を変えるために腰を浮かせると、獣狩の陰茎がずるりと抜け、そこから先ほど中に吐き出された精液が溢れて氏繁の腿を伝う。獣狩はそこから目が離せず思わず唾を飲んだ。氏繁は獣狩に支えられながら震える膝をなんとか動かして獣狩と向き合う。
「そう、そのまま、腰を下ろして」
「あぁ…っ」
 氏繁がゆっくりと腰を下ろして、獣狩の陰茎をまた飲み込んでいく。左手をついて氏繁が呼吸を整えていると、下から急に獣狩が腰を突き上げた。
「嗚呼っ!! こら、こんやは、おれがうごくと…」
「あんなに扇情的なもの見せられて! あんな嬉しいことされて! 動くななんて無理がある!!」
「あっ、嗚呼っ! ひぅっ、い、いくっ!!」
 どろどろに溶けきった腸内へ何度も深く突き入れられ氏繁が達すると、力が抜けて獣狩の胸に倒れ込む。それでもお構いなしに獣狩は氏繁の尻を掴んで突き入れ続け、また氏繁の中に精液を吐き出した。獣狩が自分の体に倒れ込んで荒い呼吸を繰り返す氏繁を抱きしめる。
「氏繁、あの薬、もしかして媚薬の類か?」
「あ、ああ…」
「なんでそんな」
「お前に気持ちようなって欲しいと口ではいいながら、俺は…己から腰を振るのがまだ気恥ずかしかったのだ。 玉かづらに相談したら試してみたらと貰えてな…、積極的になれるかもしれないと思ったのよ…」
「……お前は…ほんとに…もう…」
「お前さんはいい男だ。おなごにも若い衆にももてるだろう。俺の様な奴には勿体ない男だ。そう…いつも思っておる。だから今日、迫られておったのを見ても驚かんかった。子を成せぬ俺からしたら、お前がおなごの誘いに乗ることは…もし子を成しお前の血が受け継がれるのならば、ひいては湊の為になるかもしれぬとすら思った。……まあ痛むところはあるがな、女々しいと笑ってくれ」
「氏繁…」
「お前さんの…俺への気持ちを疑っておるわけではないし、…俺もお前のことを好いておる。ただ、俺自身がお前に応えられていない気がして、気が引けておったのだ。 今日はこんな俺でもできることがわかって、本当に良かった…」
 自分の腕の中で心底ほっとしている氏繁を見て、獣狩の胸が熱くなる。
「──ほんとうに、お前のそういうところに心底骨抜きにされるな」
「ははは、嬉しい言葉だな。俺もお前に骨抜きだわ」
 獣狩の言葉に氏繁も顔を上げて唇を重ね、二人で笑いあう。

「もう少し付き合って貰えるか?」
 氏繁の額に唇を落として、顔にかかる乱れた髪をと整えながら顔を覗き込んでくる獣狩に氏繁が微笑む。
「ああ。 女子の気持ちもわかったことだしなぁ、望むところよ」
 獣狩の不思議そうな顔に、氏繁が上体を起こす。
「俺は子を成せぬ故少し違うが、 中に出されるのは…お前の物だと印をされているようでな。 ふふっ…なんとも満たされるものだな」
 下腹を撫でながら、氏繁が獣狩を見て柔らかく笑う。その笑顔にどきりとした獣狩のものが、なかでどくんと大きくなった。
「!? なかで大きくなったぞ?」
「──お前はほんとに…先に謝っておく、後でいくらでも𠮟ってくれて構わん」
「な、なにを──つっ」
 獣狩は上体を起こすと、氏繁の鎖骨部分に吸い付き赤い痕を残した。
「氏繁は私のものだと、見てわかるように身体に付けさせてもらう」
「え、あ、おい、それは」
「だから、氏繁も私に痕を付けてほしい。私がお前のものだとわかるように」
「そ、そんなこと、湯屋や、防具の隙間から見えたら…」
「何を言う、見せるくらいが丁度いい。私と関係をもってからの氏繁は生気も色気も増していて、以前よりも若い衆からじろじろ見られているんだ。まさか、気づいていないとはいわせないぞ? 湊を不在にすることも多い分、こっちは本当に気が気じゃないんだ……」
「まさか…嘘だろう?」
「事あるごとに私が目を光らせているからな、手を出してくる様な輩は居ないと思うが、それでもいつも狩場に出ている間は不安だ。……氏繁の場合、抑え込まれたら抵抗するにも限界があるし」
 氏繁を抱きしめながら獣狩がため息を吐く。
 そんな事あったろうかと氏繁が普段の湊で生活に思いをはせる。数日前に若い衆と話している時、獣狩が近くに来るとそそくさと居なくなる者が居たことを思い出す。そういえば似たような事はその日以外にもあったような気がしてきた。
「あー…あの時の」
「やはり気づいてなかったのか」
 氏繁の申し訳なさそうな言葉に、獣狩が小さく笑って寝台へ上体を倒した。
「……お前さんでも不安になるのか?」
「なるさ。 お前が他の人と話している時なんて特に、盗られたらどうしようかと…。ほら、好きなだけ付けてくれ」
 複雑そうな表情で見下ろす氏繁に、獣狩が両手を広げてどうぞと示す。
「……ひとつでいい」
 真面目な声で氏繁が獣狩の左胸に吸い付いて痕を残す。
 赤く残った痕を撫でで、満足そうに頷く。
「ここだけで十分だ」
「──ああ、もう、ほんとに、私は遠慮しないぞ」
「お、おう、程々にな」

 翌日
 湯屋の受付台に包みが置かれる。
「おや? 今は君に何もお願いしてなかったと思うけれど」
「氏繁に渡した薬の礼だ」
「成程。ふふふ…どうだった?」
「あれは、二度と氏繁に渡さないでくれ」
「いけなかったかい?」
「あれが無くとも、もう大丈夫そうだ。あと、あれが癖になっても困る」
「そうかい。相手が君じゃなきゃ渡さなかったけど、頑張ったみたいだね。氏繁さんはどうだい?」
「無理に動いて腰が痛いとふて寝している」
「ははは、ほんと頑張たんだね! よかった。心底惚れられてるじゃないか」
「こちらも心底惚れているからな」

〈終〉

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