お互いの告白と初夜 《R18》
(2023年7月12日Pixiv投稿分の加筆修正版)
夕暮れの湊、氏繁が赤く染まる街を湯屋の近くから眺めていると、あまり見ない装飾の瓢箪を下げた獣狩が近づいてきた。
「氏繁さん、依頼の報酬に紅玉さんから珍しいお酒を貰ったんです。よかったら今夜一緒に飲みませんか?」
あまり見ない装飾の施された瓢箪の正体は、紅玉が西の方から取り寄せたものだったからのようだった。
「お、良いのか?…では、ご同伴に預からせてもらおう」
氏繁が破顔して獣狩に歩み寄る。
「つまみに漬物か、干物を焼くのはどうです?」
「それは良いな。酒が進みそうだ」
二人肩を並べて獣狩の自宅へ向かう道すがら、すれ違う湊の人たちが獣狩に声をかけていく。それに笑顔で応える獣狩を氏繁が眩しそうに眺めていた。
獣狩の自宅に着くと、「干物を焼くので、これを物干し場の長椅子に運んでおいて下さい」と獣狩に酒の入った先程の瓢箪と杯をふたつ手渡される。
言われた通り氏繁が物干し場へ足を運ぶと、水平線の向こうに太陽が沈み切ったところで、赤く染まる水平線に夜の闇が迫っていた。ぼうっとそれに目を奪われている氏繁の横を気持ちの良い風が吹き抜けていく。
「今夜は気持ちのいい風が吹いてるので、ここで飲むにはもってこいですね」
部屋着に着替えた獣狩がからくりの灯を長椅子の近くに運びながら氏繁に話しかける。
「ああ、そうだな」
「もうすぐ干物も焼けます。氏繁さんは座って待っていてください」
「悪いな」
しばらくして、物干し場の長椅子に焼いた干物と漬物を乗せた皿が置かれ、それを挟んで氏繁と獣狩の酒盛りが始まった。控えめなからくりの灯に照らされて海を眺めながら二人で他愛もない話をしていた時
「そういえばお前さん、意中の者はおったりするのか?」
たまたま話題が途切れた時、ふと思い出した様に氏繁が口にした問いに思いがけず獣狩がむせた。
「な、なんでまた」
そんなに驚かんでも…という顔をして氏繁が続ける。
「お前が湊を不在の時にな、魚取衆のおなごから聞かれたのだ。そういえばそういう類のことは話したこともなかったと思うてなぁ。実際はどうなんだ? 浮いた話のひとつやふたつ、お前さんならありそうなもんだが…。答えたくなければ言わずとも好いぞ? その様に伝えておこう」
氏繁が笑って酒をあおりながら視線を向けると、獣狩が長椅子に杯を置いて真面目な顔をしている。
「……います」
言葉にする事を幾分迷った様子の獣狩が口にした言葉に氏繁が眉を上げる。
「ほう…湊の英雄に惚れられているとは、そいつは幸せものだな。既に思いは告げたのか?」
「言わないでおこうと…思ってます」
「なんでまた」
お前なら絶対に応えてもらえるだろうにと氏繁が問うと
「こんな生業でいつ命を落とすか分かりませんし。流れ者のわたしは今まで一処に長く腰を据えることも無かったので…恥ずかしいのですがこの先のことを思うと二の足を踏んでしまって…。今は時々一緒に食事をしたり酒坏を交わし合えるので、それで満足しています」
「そうか、それは……かような関係も…良いものかもしれんな…」
寂しそうに笑う獣狩に、氏繁がばつが悪そうに皿の上の漬物を口に運ぶ。しばしお互い酒とつまみを食べる無言の時間が流れた後
「そういう氏繁さんは、今想いを寄せてる人はいないんですか?」
空になった杯を手でもてあそんでいた獣狩が意を決した表情で口にした問いかけに、遠く水平線を眺めていた氏繁が「んー…」と思案して向き直る。
「お前さんが答えてくれたのだから俺が隠すのはいかんな。ああ、居るぞ。……俺の目の前にな」
「はい?」
獣狩の驚いた声と表情に、氏繁が珍しいものを見たと笑って続ける。
「お前さんの事が好きだと言うておる」
「⁉」
「俺なんぞに惚れられていると分かったところで嬉しいものでもないだろうがな」
笑って自分の杯と獣狩の手元にある杯に酒を注ぎながら氏繁が眉を下げる。
「っ…そんなこと」
「いい、いい、そんな気を遣わんでも。人気者のお前さんのことだ、今までも誰かしらから想いを告げられるなぞいくらでもあったろう。その内のひとつと聞き流してくれれば良い。俺のことはともかく、お前さんには好いとる相手が居ることだし、その相手をだな──」
「嫌です!」
獣狩が珍しく大きな声を出して長椅子に杯を力強く置く。
「お、おい、どうした?」
驚いて困惑する氏繁の正面に移動してその両肩を掴むと、獣狩が真剣な顔で見つめてくる。
「聞き流すなんてしません! こんな、嬉しいこと…絶対に!……あなたから言ってもらえるなんて思ってもなかったのに……っ!」
「ちょ、落ち着け、どうした?」
狼狽えながら持っていた杯を長椅子に置いて氏繁が獣狩と目を合わせる。
「氏繁さん、わたしが慕っているといった人はあなたのことなんですよ⁉」
「はぁ⁉」
獣狩の言葉に、今度は氏繁が驚いて大きな声をあげる。
「ずっと…好きでした」
「……お前さん酔ってるだろう」
「酔ってません! あなたが、好きなんです」
「からかうな、こんな…」
力強い肩を掴む手に、見つめてくるまっすぐな瞳に、何故か氏繁は顔を背けてしまう。
「わたしは本気です。どうしたら分かってもらえますか?両思いだったって分かって、とても嬉しかったのに…」
「俺は…」
「…先ほどの言葉は…いつもの冗談だという事にして聞き流しておいたほうが良いですか?」
「すまん」
「っ……、では、この話は──」
「待て待て! 違う! そういう意味ではないっ」
獣狩が離れようと身を引いた時、氏繁の左手が獣狩の服を掴む。
「……伝えたことは…偽りではない…、伝えられるだけで満足する気だった、から、な…。お前さんに他に好きな者がおると聞いたからこそ、それならば言ってしまっても良いかと思ったのだ…。だから、その…まさかその相手が俺などとは思いもよらず…怖気づいてだな…すまん」
氏繁の声はどんどん小さくなっていき、最後には獣狩の服から左手を離して、そのまま顔を覆ってしまう。
「氏繁さん、顔見せて下さい」
「今は情けない顔をしとるから…勘弁してくれ…」
獣狩が下から氏繁の顔を覗き込むが、顔を見られたくないのか氏繁が左手で顔を覆ったまま懸命に顔を逸らしてしまう。見える頬は赤くなっていて、その姿に獣狩は微笑んで氏繁の頭に額を寄せる。
「氏繁さん…場所、変えてもいいですか?」
「…ん、どうした」
「その…もっと…あなたに触れたくて…いいでしょうか?」
「なんだなんだ、さっきの勢いはどうした? ……いいぞ、俺もお前さんに触れさせてもらうからな?」
「はい」
二人で獣狩の自宅の中に入ると、獣狩が後ろ手に戸を閉め氏繁に手を伸ばした。獣狩がそのまま引き寄せた氏繁を抱きしめると、氏繁も獣狩の背中に手を回す。
先程の勢いから打って変わって優しく身体をなぞっていく獣狩の手に氏繁がこそばゆいと身をよじる。手が首に添えられてそのまま顔を覗き込まれる。お互い上気した頬に小さく笑いあうと唇を重ねた。はじめは啄ばむように、徐々に舌を絡ませる深いものになり、緩やかだった獣狩の手も興奮が増す毎に強く性急になっていく。ぐっと腰を引き寄せられ、お互いの身体が密着すると嫌でも股間の膨らみがわかる。
「っふ、あ…んっ……ちゃんと勃つんだな…」
「そりゃあ勃ちますよ…。だって…あなたで抜いたことありますし…実際に触れられるだなんて…うれしい…はぁ…」
「俺もだ…叶わぬ夢だと……」
獣狩に応える様に背中に回した左手で氏繁が強く獣狩を抱きしめる。
「氏繁さん、寝台に…いいですか?」
「ああ」
寝台へ二人で移動し、氏繁を横たわらせると、獣狩がそれに覆いかぶさるようにして顔を覗き込む。獣狩の表情に余裕はない。
「氏繁さん、この先、進ませてほしいです…」
「構わんぞ? それにこんなにしておっては、止めても止まれぬだろう?」
氏繁が右脚を上げて、硬くなった獣狩の股間に押し付けてやると、獣狩が辛そうに眉を寄せる。
「あっ…あまり煽らないで…」
獣狩が着ていた服を脱いで下着だけになると、氏繁の服を優しく脱がせていき義足をゆっくりと外す。見下ろす氏繁の身体に獣狩が生唾を飲み込んだ。右腕に大きな傷痕、他にも獣によるものか戦でついた物か…所々傷痕がある。傷痕をなぞりながら氏繁の身体を眺める。無駄な肉の少ない身体が…あれほど触れたいと願っていたものが…今目の前にある。
「(もっとこの人に触れたい、暴きたい、受け入れて欲しい)」
見上げる氏繁は若い獣狩の身体に刻まれた多数の大小の傷に乗り越えてきた獣たちとの戦いを見て、その肉体に見惚れていると、見下ろす熱を帯びた獣狩の瞳と目があった。氏繁はやっとその時自身の身体が舐めるように見られていることに気づき、顔を赤くし思わず目をそらしてしまう。
「(そんな、顔をするとは…)」
氏繁が獣狩の顔を見れないでいると、獣狩がそのこめかみに唇を落して耳元で囁く。
「氏繁さん…」
「ん?」
「今日の今日で流石に最後まではと、触れるだけでと思ってたんですが…。我慢できそうに無くて…ごめんなさい…」
恥ずかしそうに申し訳ないという顔で謝る獣狩に、氏繁が何事かと下に視線をやると、獣狩の下着が力強く高く押し上げられているのが目に入った。氏繁を見下ろす獣狩に余裕はなく、息も荒い。その荒い息とぎらついた目に、氏繁は獣たちの目を思い出していた。
「…好きにしてくれて構わんぞ、俺の尻の穴が裂けたところで誰も困りはせんだろう」
「わたしは困ります…うぅ……」
普段見ない獣狩の泣きそうな顔に思わず氏繁の口元に笑みが浮かぶ。
「それに、我慢しろと言ってもこれでは困るだろう?」
「うっ…それは、そう…なんですけれど…」
「泣きそうな顔をするな、任せるから」
「ありがとう、ございます…」
氏繁に覆いかぶさると、そのまま唇を重ねて口内を舌で弄る。荒い息遣いで唇から耳へ、そこから首筋に荒々しいが慈しみの滲む唇が何度も肌に吸い付いていく。氏繁が左手を獣狩の陰茎へのばして下着の上から触れると「もっと触って下さい」と獣狩が下着から濡れてそそりたつ陰茎を取り出す。躊躇いがちに触れる氏繁の手に獣狩が身体を震わせ深い息を漏らす。獣狩が氏繁のものに手を伸ばすと、下着の下からしっかり主張していて、やわやわと下着の上から撫でると氏繁が小さく息を漏らして身をよじった。
「氏繁さんも、勃ってますね…」
「何分男とは初めてで、不安だったがな…」
「嬉しい…」
触れながら、お互い下着も脱いでしまって、身体を弄りあい続ける。獣狩は自分の指を舐めると、氏繁の後孔に触れた。
「指で、解していきますね」
「お、おう…」
入口にやわやわと触れてから、指を一本ゆっくり入れていく。
「……氏繁さん、力抜くの、できそうですか?」
「ふっ…ん…」
異物感で身体を強張らせる氏繁に、獣狩が首筋に唇を落としながら耳元で話しかけて様子を伺う。氏繁は耳元で名前を囁かれどきりとして反対に力んでしまう。
「ゆっくり息をして…」
氏繁の様子を見ながら、二本目を滑り込ませ中を解していく。指が中のあるところに触れた時、氏繁の身体が震えて今までと違う反応を見せた。
「んっ…まて…そこ、は…」
「気持ちいいですか?」
「刺激が…っ、あっ…ふ…」
「ここが良いんですね……良かった…気持ちよくなってもらえそうで…」
「そこばか…り、やめ…」
「気持ちよくないですか?」
「……気持ち良い…と、思う……」
「ゆっくりほぐしていきますから、呼吸してください」
「ん…ぁ…」
覆いかぶさって耳元で囁く獣狩の耳が口元に近づくとそれを氏繁が食み、獣狩には氏繁の上がった息遣いがはっきりと聞こえさらに興奮していく。後孔をじっくり解しながら、獣狩は性急に事を進めそうになるのを堪えながら、快感に身をよじる氏繁を眺めていた。
「うじしげ、さん…入れますね…」
そろそろ頃合いと獣狩が先走りで濡れた先をぐっと後孔に押し込み、氏繁は下腹部の圧迫感に息を押し出される。ゆっくり奥に入ってくるそれが先程触られて良かった場所を掠めていき、氏繁の身体が跳ねた。思わず逃げる氏繁の腰を獣狩が両手で掴んでぐっと引き寄せていく。
「はいりました…」
「……ん…あれが…入るもんだな…」
氏繁が自分の腹に手を当てて視線を向ける。男相手は初めてで、勃つか不安だった自分の陰茎はすっかり勃起している。ふと獣狩が動かない事に気づいて視線を上げると、獣狩が両手をついて眉間に皺を寄せて目を伏せ、荒い呼吸を繰り返していた。
「…大丈夫か?」
圧迫感と違和感、そして少しずつ押し寄せる後孔で感じる快感に苦しそうにしていた氏繁だったが、動かない獣狩を心配して左手をその頬に伸ばす。近づいてくる左手に気づいた獣狩がその手に嬉しそうに顔を擦り付けて手の平に唇をよせる。
「だい、じょうぶです…。気持ち良いのと嬉しいのとで、すぐ、出してしまいそうで…その、勿体なくて…」
「はは、別にこれきりというわけでは無いのだろう?」
「っ──……はい」
氏繁の言葉に嬉しそうに目を細めた獣狩がゆっくりと腰を使い始める。
「動きますね…」
「あ、…んっ…」
ゆっくりだった動きは次第に激しくなり何度も何度も腰を打ち付けられ、前立腺や奥を何度も突かれて氏繁が押し出されるように射精する。最中、獣狩は何度も氏繁の名前を呼んで、氏繁の身体に唇を落とし、まるでこれが夢で無いと確かめているようだった。
「氏繁さん、気持ちいいですか?」
「ああ…っ…お前さん…は…?」
「凄い…きもち、いい、です…!」
「(こんな、求められるのは…はじめて、だな…)」
何度目か氏繁が逝かされ、獣狩も外に何度か射精した頃、朦朧としている氏繁に獣狩が額を合わせる。
「こんな時にお願いしてもいいですか?」
「んぁ……」
「名前を、呼んでもらえないでしょうか?」
「なま、え?」
「あなたに呼んで欲しくて…お願いします…」
「いい、ぞ…」
快感に翻弄されて力の入らない氏繁の左手が獣狩の頬に添えられる。
「頼武」
名前を呼ばれた獣狩が心底嬉しそうに笑い、身体を震わせた獣狩はその高ぶりのままに腰を打ち付け、二人同時に果てると、快感と疲労の余韻に浸りながら二人とも眠りに落ちていった。
翌日、情事のあとはそのままに寝台の上で獣狩と氏繁が向き合っていた。
「こんな時にとは思うのだが、今話しておきたい事があってな…いいか?」
「なんでしょうか」
「俺は…かような身体だ。お前に世話をかけることが多いだろう。その上この年の差。関係を持てたことは…俺としても至極嬉しいのだが…先に死ぬだろう俺なんぞに、未来あるお前さんの貴重な時間を貰ってしまって良いのかと思うてな…。他に若くて釣り合う…お前にふさわしい相手がいるかもしれん。それでも、俺を選んでくれるのか?」
伺う様に獣狩の顔を見る氏繁の顔は不安と期待が入り混じっていた。選んで貰えたことは嬉しい。だが己にその価値が有るのかと問われれば胸をはれないという様に。左手は先の無い左脚と動かない右腕を行ったり来たりしている。
「氏繁さん」
獣狩は氏繁の近くに寄ると、その左手を両手で捕まえた。氏繁の目を見て、両手で左手を包み込み言葉を続ける。
「…わたしはこれまで何度も獣との戦いで死にかけてはなんとか命を繋いで来ました。むしろ獣狩を続けるならば、わたしの方があなたより先に命を落とす可能性は高いでしょう。昨夜、あなたからの問いに気持ちを伝えないつもりと答えたのは、こんな生業のわたしではあなたに心労ばかりかけてしまいそうで、伝えずに今までの距離を保ち続けられたら…それだけで幸せだと思っていたんです。けれど…ちゃんと気持ちを伝えて…もし一緒になってもらえるなら湊に腰を据えて、死ぬその時まであなたの隣で生きてみたいと…夢を見ていたことも確かなんです。あなたが身体の事を気にしていることは理解しています。過去の事も相まって…自分の事をあまり良く思っていないことも。でもわたしが愛しいと思っているのは、かの日の…わたしが知り得ない氏繁さんではなく、今目の前にいる氏繁さんなんです。誰でもない、あなたがいいんです…。だから…一緒になって下さい」
「──嗚呼、俺もお前と一緒になりたい」
氏繁は湊の皆にどう思われるか分かった物でないと、この関係をわざわざ皆に知らせずとも…と思っていたが、その後依頼の為に湊から狩場へ移動する獣狩が嬉しさ余って湊でそこら中に報告して回ったため、二人の関係は一日で湊の皆が知るところとなった。
「氏繁さん、おめでとうござます!」
「……おめでとう…」
「いつくっ付くかって思ってたんだ! これでやきもきするのも終わるなぁ!」
「やっとだね。このまま何も進展なかったらどうしようかと思っていたよ…」
「獣狩のやる気が満ち溢れているのは私たちにも有難いことだね! 今なら勢いで色々依頼を受けてもらえそうだ」
「おお、氏繁か獣狩から聞いたぞ? 私にできることは少ないが、何か祝いの品でも用意しようか?」
「よほど嬉しかったんでしょうなぁ。あんなに子供みたいにはしゃいではるのを見るのは初めてですねぇ」
皆の反応に頭を抱えながらも嬉しそうに笑う氏繁の姿があった。
「大将め…まったく…」
〈終〉