付き合う前。両片思い。
(2023年7月21日Pixiv投稿分の加筆修正版)
ある日、獣の討伐依頼を受けた獣狩が夏木立の島へ向かう準備を進めていると氏繁が近づいてきた。
「大将、信光から夏木立の島に向かうと聞いたのだが、俺もお前さんと一緒に行ってもかまわんだろうか?」
「かまいませんよ、何か素材が入用ならついでに採ってきましょうか?」
「流石に己の酒代稼ぎを代行してもらう訳にはいかんわ。ただ量があるから運ぶのは手伝ってもらうかもしれんな」
「依頼が無事終わった後ならいくらでも手伝いますよ」
談笑もほどほどに夏木立の島へ船で移動し、浜辺の野営地で獣狩が装備の最終確認をしている。
「お前さんの居る場所の近くで採取をしたいのだが……やはり邪魔になるだろうか?」
氏繁はいつもの服装に、採取した物を入れる為に籠を背負ってきていた。荷物が多くなる以上いつもより移動するのは遅くなるだろう。
「獣を狩っている近くは巻き込まれる危険があるのでお勧めできませんね…。かといって他に同行者がいない状況で離れて採取の為に島を巡るのも不安が──…そうだ、ちょっと待っていてくださいね」
獣狩が「ちょっと集まってくれ!」と大きめの声を出すと、野営地の周囲にいたつくもたちがカラコロカラコロンと様々な音をさせて獣狩の周りに集まった。
「な、何事だ⁉」
氏繁が驚いてつくも達に目を奪われている間に、獣狩が身をかがめてつくもたちに声を潜めて話しかける。
「わたしのとても大切な人なんだ。わたしが獣を狩っている間、代わりに守って貰えないだろうか?」
つくもと言葉で意思疎通を取ったことは無いが物は試しと獣狩が話しかけてみたところ、三匹がぴょんぴょんと飛び上がる。それを問いかけの承諾と取った獣狩が「ありがとう!」と声をかけると同時に残りのつくもたちはカラコロカラコロンと様々な音をさせながら元の場所に散っていった。状況が飲み込めていない氏繁のもとに歩いてくる獣狩には四匹のつくもが付いてきていた。
「氏繁さん、この子たちが引き受けてくれたので安心ですよ。しっかり採取してきてください」
「なっ…ど、どういうことだ? 此奴らはお前さんに懐いとるものらだろう?」
「つくも、です。それぞれに名前は付けてないのですが。わたしはいつもこの子が手伝ってくれていまして、連れてきたこの子達は氏繁さんの警護を引き受けてくれたんです」
「話せるのか?」
「いえ、なんとなくの意思疎通ですが」
「なんと。摩訶不思議なからくりよ」
カラ、コロコロンッ
氏繁の周りで三匹がコロコロ転がって回る。
「おいおい、あまり足元で回ってくれるな、蹴ってしまったらどうするっ⁉」
「大丈夫ですよ、上手く避けてくれますから。……そろそろ目的の獣を探しに出ますね。この野営地にある物は好きに使ってください。その子達が居ますから大丈夫だと思いますが、何かあったらからくりの通信で呼んで下さい」
「わかった。気をつけてな」
相棒のつくもと拠点を後にする獣狩を見送り、足元の三匹のつくもを改めて見下ろす。
「お前さん達が居てくれると俺も心強いな。すまぬが少し俺に付き合ってくれ」
籠を背負いなおす氏繁の言葉に応える様につくもたちがカラコロ音を立ててぴょんと跳ねた。
夕暮れ時、無事獣を狩った獣狩が素材を包んだ荷物を担いで浜辺の野営地に戻ると、火の近くで氏繁がつくも達に囲まれていた。少し離れたところに置かれた籠は採取した素材で一杯になっていて、無事採取目的も達成されたようだった。
「今日は助かった。小獣に立ち向かうとは立派だのぅ。汚れてしまったな、こちらへ、礼にはならんだろうが磨いてやろう。お前さんは素材の場所を教えてくれたな、助かった。おっと、物見台に登って獣の接近を知らせてくれたのはお前さんだったか? 助かったぞ」
警護についていたつくも達以外も代わるがわる氏繁の膝の上へ撫でられに行っている。
「(いいなぁ…羨ましい…)」
光景に思わず足を止めてしまった獣狩が声をかける前に、獣狩に気づいたつくも達がカラコロと音を立てて獣狩の元に向かい、氏繁も獣狩の帰還に気付く。
「おお、大将、おかえり」
「無事戻りました。つくもたちと随分打ち解けましたね」
「ああ、此奴らには随分助けられてな。労いになるかわからんが、撫でておったところだ」
膝に転がり乗って来たつくもを撫でる氏繁の表情は柔らかい。先程聞こえた言葉の通り、つくも達にかなり助けられたようだ。大きく武骨な手が、優しくつくもを撫でている。
「あの」
「ん?」
剝いできた獣の素材を包んだ荷物を地面に置いて、獣狩が氏繁の前に近づいて膝をついた。氏繁の膝に乗っていたつくもが氏繁から離れる。
「わたしも目的の獣を無事狩ってきました」
撫でてくれというように、獣狩が氏繁の前に頭を垂れる。氏繁は一瞬戸惑ったがゆっくり左手を獣狩の頭に伸ばした。
「……よくやった、よくぞ成し遂げた。そして無事に帰ってきてくれて良かった」
氏繁が優しく頭を撫でると、首を垂れたまま獣狩が嬉しそうににこにこと笑う。
「(子供のような顔をして…まるで大きな犬の様だな…、湊の英雄にこんな一面があるとは…)」
氏繁が嬉しそうな獣狩の顔をもう少し眺めているかと頭を撫で続けると、獣狩がはっと我に返って顔を赤くして立ち上がった。
「あ、ありがとうございます…! そういえば氏繁さんはもう夕餉は食べましたか?」
「いや、まだだ。俺も先程戻った所でな。戻ってからはつくも達に構っておった」
「では何か作りますね。丁度魚取車も戻って来てますし、獲れた魚を焼きましょうか」
「それは良いな。今日採取で岩塩が取れたのだった。塩焼きにせぬか?」
「良いですね。わたしは魚を取ってくるので、氏繁さんは岩塩の準備をお願いします」
「おう」
波打ち際に設置されたからくりへ向かう獣狩の後をつくもが数匹追っていく。獣狩に構って欲しいのか足元をカラコロ転がるので獣狩の「こら」「あとで構ってあげるから」という声が聞こえる。
「氏繁さん、野菜が少し保管してあるので、それも一緒に食べませんか?」
「ああ、今宵は豪勢だな!」
魚を両手でつかんでこちらに戻ってくる獣狩に手を振って応える。浜辺の野営地に食材を焼く香ばしい匂いが漂い、二人の談笑する声が夜が更けるまで続いた。
「(撫でられるつくもが羨ましくて、思わず頭を撫でてもらいに行ってしまったし…撫でられて顔が緩んでいるのを絶対に見られた…。情けない姿を……。…氏繁さんの手…優しかったな…)」
「(湊を救った英雄も…人…か。あの様な顔をするのだな…あの様な表情…俺にしか見せぬのなら、嬉しいのにな…)」
獣狩は火の近くで、氏繁は幕屋の中で各々悶々として眠れぬ夜を過ごしたのでした。
〈終〉