「3日間」
『うむ?』
「貴方が目を覚ますまでの期間であり、
 私が目を覚まさない貴方が気掛かりで他の何にも…
 料理にすら集中出来なかった期間です。
 両手を失ったようでした。味覚を失ったようでした。
 二度と無茶はしないでください。」

 【失う恐怖】

* * * * * *

「ズミ殿の意外な一面を見たのである」
隣の彼は何がという表情だ
「先程の少女とのやりとりである」
 そう伝えればああと言う声
「私の様に成れるかという問いに答えただけです」
「どの様に?」
「美味しいという感動と、それを追いかける気持ちさえ失わなければ…と」
本当にこの青年は眩しい程真っ直ぐだ

【まっすぐな】

* * * * * *

「待つのだズミ殿!」
感情を隠す限界が近いというのに、呼び止められれば足を止め振返ってしまう。
何かと問えば彼は少し困り顔で
「今日はどこか元気少ない様だが疲れておいでか?」
疲労ではなく心労なのだと答えられる訳もなく、
今にも崩れそうな仮面をなんとか保つので精一杯だ
「そうか、よく無理をする所があるので気になったのだが…勘違いなら良いのだ。
 しかし顔色も優れない気がするし、今日は早く休まれるがよかろう。
 我は毎日ズミ殿の料理を楽しみにしておるからな!」
軽く腕に手を添えられ紡がれる言葉に、思わず自然と笑みがこぼれた。

* * * * * *

見慣れた後ろ姿を見つけ近づいてみると
隣に見目麗しい女性の姿を認め、思わず足が止まる
「ガンピさん、どうしたの?ぼぉっとしちゃって」
「ああ、ドラセナ殿」
「何か見つけ…あら、キレイな方ね、ズミさんとお似合いじゃないかしら」
彼女も視線の先に気づき、小さく笑うと去っていった。

この様な場面に遭遇するのは一度や二度ではない。
ただその度に告げぬ決意をする癖に、
もしかしたら等と気持ちを秘め続ける自身の女々しさに落ち込むのだ。
「おや、ガンピさん?」
女性に別れを告げ彼が近づいてくる、聞くと先日のパーティーの参加者らしい
「お似合いであったぞ」と精いっぱいの笑顔で伝えると、
彼は小さく下唇を噛んで
「わたしは…」そう言って両手を握られ
「貴方のことが、す、好きですので、
 興味のない方との事を言われても、その、困ります」
いつもと表情は変わらぬのに
耳まで真っ赤な想い人の言葉を理解するのに暫く時間がかかった。

* * * * * *

コツコツ

鎧をつつかれて振り向けば
そこには見慣れた同僚のポケモン――ガメノデスが

視線が合い小さく頷くと、そのままどこかへ走っていってしまった。
困り顔だった事や、普段バトルや厨房での手伝い以外で
同僚がボールから出していない事を思えば大事かも知れぬと急いで後を追う

着いた先は水門の間
奥へ進むと床に仰向けで寝転んでいる同僚がいた。
人が到着したことで水が満ちたその場所で、動かず、ただ浮かんでいる。

先に着いているはずのガメノデスを探しても見あたらないところを見ると、
どうやら主のボールへ戻ったようだ。

冷たい水に濡れる彼の顔色は白い
差し込む光で煌めく様は神秘的だが、どこか影を感じ、足早に近づく。

ざばざばと近づき顔を覗きこむと、
音や明かりを遮られた事で気づいたのか、うっすらと瞼が上がった。

何か?と問う消えてしまいそうな彼に黙って手を差し出す。

「……なんでもないんです。」

差し出した手を拒むように瞼がおりる。
表情は普段以上に感情が読み取れない。

少しかがみ、彼の冷えきった手を握った。

「ズミ殿」

何度か呼べばこちらに視線を向ける。
その瞳に揺らぎを見て、そのままぐっと手を引くと体勢を崩しながら彼が立ち上がった。

「随分強引ですね。」
「水ポケモンの使い手が水遊びをして風邪をひいては笑い者であるからな。」
「そう…ですね。着替えて来ます。」

水濡れの背中を見送りながら、
今にも消えてしまいそうだったと、何か悩みでもあるのかと問おうとしたとき、
丁度彼も足を止めてこちらを振り返った。

「時々水に浸かりながら、このまま溶けて消えてしまえたらと思うことがあります。
 ……今日は貴方に邪魔されてしまいましたが」

「それは、悪いことをした。」

どう返してよいかわからず、ただ彼の邪魔をしたらしい事は確かなので謝罪をする。

「……また、そう言うときは引き上げてください」

【水を繋ぎ止める】

* * * * * *

「なぜ逃げるのですか!?」
「貴殿が追いかけてくるからである!!」
「お話があるだけです。止まってください!!」
「お断りするっ 止まってと言いながら
その手に持っている包丁はなんなのだっ!?」
「これは念の為ですよ。使わせないで下さい。」
「念のためとは言いつつ使う気なのではないか!」
「だから止まってくだされば良いのです!」
「我まだ死にたくないー!!!」

【本気の追いかけっこ】

* * * * * *

四天王とチャンピオンでのお茶会は不定期に開催される。
気乗りしなければ参加せずとも良いため、全員が揃うことは稀だ。

「(めずらしい、全員が揃うなど…)」

ティーカップを口元へ運びながら、ズミは眼前の風景を眺める。

主に話しているのはドラセナとガンピだ。
それに辛辣な返事をするパキラと、頷きながらにこにこしているカルネ。
そして一歩引くような形でそれを眺めるズミだ。

ティーカップをソーサーに下ろして自然と視線が向かうに任せれば、
左斜め向かいに座る年上の男に視線がいった。

「ん?」

彼が自分の右隣に座るカルネへ顔を向けた時、首に赤い痕を見つけた。
それはどうも数箇所あるようだった。

「(――…、落ち着けズミよ落ち着くのだ。
 ガンピさんを尾行し続けて早数ヶ月、その様な相手がいなことは確認している。
 そういう店にも行っている様子はなかった。
 だからやっとの事で次の休日、
 試食に協力して欲しいと言い訳してディナーに誘ったのではないか、
 きっと見間違いだ、間違いに違いない)」

元より色の白い顔から血の気が引き、冷や汗が吹き出す。
動揺でカップを倒しかねないと、手を離した際に冷たい感覚を覚え、
その方向へ顔を向けると、それは向かい側に座るパキラだった。

「(え?ちょっとパキラさんその軽蔑するような目はなんですか!?
 わたしではないですよ!!)」

針で刺されるような感覚に自身の左側を見れば、
ドラセナが笑顔でガンピの話に応えながら、
口元とは違って笑っていない目でズミを捉えていた。

「(ドラセナさんまでっ、あれわたしじゃないですって、
 誰かなんて知りませんしむしろ私が一番ショックを…………っ!!?)」

ドラセナの向こう側、ズミから一番遠くに座るカルネと目が合う。

氷のような笑顔に、視線を受けるズミの口元が引き攣る。
彼女はじっくりわたしと視線を交わした後、すこし顔を傾げる仕草の後、
口角を一層あげて頷いた。後で話があるというサインだ。

「(どうする、わたしは何もしてないし、わたしじゃないと言って信じて貰えるだろうか。
 むしろわたしだったらもっと目立つ場所にして自慢を…
 ――――いやいやいや、思考が脱線した。
 そんな事ではなくあの3人に殺されない様なんとかしなければ……!!
 ガンピさんに直接聞き――)」

「ズミ君 ちょっといい?」

 ――嗚呼、これは覚悟を決めるしかない。

【お茶会(ネジが1本取れてるシェフの片思い)】

* * * * * *

「ズミ殿は短冊に何を願うのだ?」

やはり料理のことかと問う彼は、
きっと見上げた星空に数日前に知った風習を思い出したのだろう。
今は夜更け、カルネさんの頼まれ事の帰り道だ。
ほの暗い道を問いの返事を考える振りをして空を見上げる。
広がる星空のどれが件の星々なのかは天文に明るくないズミにはわからなかったが、
ひとつだけ確かな事があった。

「七夕は昨日ですよ、ガンピさん。」
「ま、誠か?!」

年に1日しか会えないなんて、
しかも雨が降ったらその1日ですら会えないなんて、ありえないという事だ。

「(この先…この人の心を手に入れたとしても、そんなもの耐えられない!!)」

【7月8日】

* * * * * *

「雨か…」窓に当たる雨粒の音に耳をすませていると、ふと小さな呟きが耳に届いた。
嫌いなのですかと問えばゆっくり首を横に振る。
「どうも陽の光を浴びないと今日が始まった気がせぬのだ」
無邪気な子供の様に、太陽の様に笑う彼の眩しさにわたしは目を細めた

【隠れぬ太陽】

* * * * * *

偶の休みに出かけてみれば突然の雨。
備えに持っていた折り畳み傘を広げると見知った背中を見つけ声を掛ける
「助かったのである」
小さな傘の下に大の男が二人、共に肩を濡らしながら歩く。
「あの店で傘を買うのである」
傘の下から出ていこうとした彼の服を思わず引いてしまったのには、我ながら呆れる。

【このまま】

* * * * * *

連日遅くまでレシピの練直しで眼精疲労が溜まり何度瞬きをしても目が乾く。
「機嫌悪そうね」
足早に離れられると思えば相当な顔をしているらしい。
別に機嫌が悪いわけではないのだか、
元より通常目つきが怖らしいのだから大差ないのだろう。
「おや、ズミ殿眼精疲労のようだか、また寝ておらんのか?」
……なぜ気づく!!

【他の人にはわからない】

* * * * * *

ズミ殿から我に贈物があると言う。
嫌な予感しかせぬが恥じらいながら差し出す姿は
目付きに似合わず可愛らしいような気もする。
受取った物は軽く、包装されていても薄い物だった。
中身な何なのだろうか?
「わたしの下着です。ぱんつの日らしいので」
……ギルガルド、ハッサム!!

【木端微塵】

「あぁ!!なんて事を!!」
「き、気は確かか!?頭でも強くぶつけられたのか?
 暑さでおかしくなられたか!?」
「わたしは正気ですよ。
 ガンピさんのぱんつを頂けないから、
 わたしの物をお渡しする代わりに頂こうと…」
「正気の者はそんな事口にせぬ!正気に戻られよ!」
 めこっ

【鉄拳】

* * * * * *

「今日はハグの日である!」
「はぁ…」
「一緒に居てくれる大切な人を心を込めて抱きしめる日との事。
 ズミ殿は大切な同僚である。差し支えなければハグしてもよいか?」
「……それはあの二人にもしたので?」
「うむ!」
「で、では受けないわけにはいきませんね」

【心かき乱される抱擁】

* * * * * *

冷蔵庫の中を確認して
(ガンピさんとこの前食べた、あの料理を作ってみるか)
記憶を元に無駄な動きなく料理を仕上げる。
味見の為、小皿に取り掬って一口。
(味は問題がない、なのに味気ないというか何かが足りない…?
だが、これ以上なにか足しては味が崩れてしまうだろう。なぜだ?)
「ズミ殿、良い香りがするが何を作って――、
おお、これは先日食べた料理であるな。頂いても良いかな?」
「ええ、でも何が足りないのです。」
「そうであるか、とても美味しいではないか」
「そうですか?(あれ?先程と違う…何故?)」

【足せない隠し味】

* * * * * *

「雨は好きですが、濡れるのは嫌いです」
「傘をささずに佇んでいれば濡れるのは必然である」
「確かにそうですが
 水に触れることが多いので落ち着く事ができるような気になるのでしょう」
「…何か悩みでも?」
「答えはでていますので悩みとは言えないのですがどうも考えが纏まらなくて」
「して、考えは纏まったのであるか?」
「ええ。案外とても簡単な事でした。」
「どの様な事なのだ?」
「立場も性別も年齢差も芽生えた気持を摘むには力不足でした。」

 ガンピさん、好きです。

【雨中の告白】ズミガン

* * * * * *

「良い香りがするが、お茶の時間か?
 ――ズミ殿、深刻な顔をしてどうしたのだ?」
「カルネさんパキラさんに、この紅茶は苦手だと言われてしまいました。」
調べが足りなかった、このズミとしたことが…と落ち込むズミの横で、
ガンピが新しいカップにまだポットに残る液体を注ぐ。
「この葉、我は好きだがな。昔を思い出す。」
「?」
一口飲んで笑うガンピは、
頭上に疑問符を浮かべて見詰める(睨む)ズミを見てまた笑い、つづける
「仕えておった主が好んで飲んでおったのだ。
 我も最初は抵抗なかった訳ではないが、
 毎日飲んでおったらすっかり虜になってしまった。」
そう言ってまた一口。
思いを馳せるように瞼を閉じる同僚の姿に驚いて、ズミは何も言えなかった。

過去を知りたいと聞いたことは無い。
たから彼に自分の知らない所があるのは至極当たり前だ。
だが同僚としての長い時間が、日々近しくなる距離が、
何故か自分は同僚の全て知っている様な錯覚をもたらしていたのだと気付かされ、
首部を垂れた。

「(聞けば、答えてくれるだろうか)」

ズミの心は違う悩みに支配されることとなった。

【香りに呼び覚まされる】

* * * * * *

ガンピさん!!
貴方なんて恐ろしいものを食べたいとおっしゃるのですか!!?餅と言う食べ物は毎年喉に詰まらせて搬送される高齢の方が多数いる上、死亡者も出ているというではありませんか!?
パキラさんに聞きました!!
なんて恐ろしいものをわたしに頼んだんですか!?
…………餅は小さく作ってきましたから、良く噛んで召し上がってください。
は?噛みちぎるときに餅が伸びるのが楽しみだった?そう言うことは早く言ってください!!!
取り寄せた餅米がまだありますので、明日作って差し上げます!!
まったく、喉に詰まらせないでくださいよ…?

【お餅が食べたい】

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