「貴方にはわたしの悪いところばかり見せてしまっている気がします。」
食事の手を止め、ズミに視線を向けると彼には珍しく肩を落として俯いている。
「そんなことはないぞ、ズミ殿。気に召されるな。」
今夜ガンピはズミにディナーを振舞うと、ズミの邸に招待されていた。
だが彼が調理中に閃いて熱中してしまったらしい。
招待された時間に玄関で呼び鈴を鳴らしても主人が現れなかったため、
ガンピが真面目に一時間程玄関で招き入れられるのを待つ事態が起きていた。
「貴方にはわたしの誇れる良い部分だけを見ていて欲しいのです。」
ズミはガンピを見つめて言葉ははっきりと言うが、その目はいつになく弱々しい。
「…それは、難しい事ではないだろうか?」
「いいえ。そうしなければわたしは、いつかわたしは…。」
ーー貴方に嫌われてしまうことでしょう。ーー
口から零れそうになった言葉を飲み込んだズミは、堪えられないとガンピから目を反らした。
「ふむ。」
少し考えた後、ガンピは席を立ち、向かい側のズミの元へ行き跪いた。
「どんな部分であろうとも、それはズミ殿である。」
「ですがーー」
何か言わんとしたズミを制するように、膝の上で固く握られたズミの拳をガンピの手が包む。
「何よりこれからも共に過ごしていく上で、悪い部分が見えないで済むという事はないであろう。
我はズミ殿を好いているのであり、ズミ殿の一部だけを好いているのでは決してない。
それに我の方が格好悪い大人げない部分を指摘されてばかりで、恥ずかしいのだがなぁ。」
ズミの手を包み込み軽く撫でながら、ガンピが笑う。
「ズミ殿は我の至らない部分を見て、いつもどう思っておるのだ?」
「…放っておけないと、思っています。」
「その気持ちと同じ様に、我も其方を想っておるのだが、安心してもらうことはできないだろうか。」
言葉ではなかなか伝え辛いものだが…と、ガンピの手がズミの頬に伸び、流れた滴を拭った。
その手にズミの手が重ねられる。
「……本当、貴方には敵いませんね。」
重ねた手を移動させ、ガンピの掌に小さなキスをするとズミは小さく笑った。