この気持ちをどう整理すべきか
この歳になって恋というものをするとは思ってもいなかった
しかも年下の青年に心惹かれるとは…
四天王という地位、同僚として並び立つことに関しては微塵も気にはならぬし、問題はない
だが、そういう相手としては…あまりに自身が彼に不釣合いだ
ひと回り以上歳の離れた彼への、日に日に大きくなる想いを、募る気持ちをどうすべきか
想い悩み始め何も行動にできぬまま数か月も経つと、
我の態度に不審な点でもあったのだろう、ここ1か月程彼に避けられている…様な気がする
どことなく二人きりになることを避けられているような
隣に並ぶことも避けられているような気さえする
遠くなる距離と比例して、近づきたいと思う気持ちが急速に心を占めてゆく
「(この時間、ズミ殿は朝食の準備をしているのだろうか…)」
早朝のトレーニングをこなしながらも悶々と考えるのは彼のことだけなのである
元より隠し事が下手な性分だ
「騎士たるもの、正々堂々と。」
打ち砕かれ、吹っ切れるのが一番である!
* * * * * *
―― その日の昼時
「ズミ殿、今夜時間をいただけぬか?」
「どうしたんですか、急に。」
昼食の食器を下げる背中に声をかけると、ズミ殿の肩が少しはねた
避けられているかもしれないとは思っていたものの、こんな反応をされるとは…
そんなに我は何か変なことをしたのだろうか?
「其方の仕事が終わってからでかまわぬから、鋼鉄の間に来てはもらえないだろうか?」
早鐘のように打つ心臓を深呼吸をして落ち着かせながら、努めて冷静に言葉にする
「ここでは言えないような内容なのですか?」
「ううっ…、うむ、そうなのだ。いかがだろうか。」
流石に我も廊下で募った思いを言葉にできる程の覚悟はできていない
パキラ殿やドラセナ殿も近くにいる今、ズミ殿と自身の今後の体裁を考えると言えるわけがない
「……生憎今夜は明日引き受けている食事会の準備が遅くなりそうですので、別の日ではい――」
「そうであったか!申し訳ない。このやり取りはなかった事に!!」
「ガンピさん!」
相手から断りの言葉が聞こえたと同時に言葉をかぶせ早々に逃げ出してしまった
ズミ殿に呼び止められた気がしたが、鎧が立てる激しい金属音でよく聞こえなかった
むしろもう足が止まらぬ
その日は挑戦者が来てもなかなか集中できず、先ほどの醜態も相まってため息の多い日となった
* * * * *
― その日の夜
もう今日は帰ってよいのだ、だが…
どうしても帰る気になれず鋼鉄の間の彫刻に腰掛ていた
もやもやとはっきりしない思いは帰宅したとしても晴れはしないだろう
ならば落ち着くまで、せめて日付が変わる時まで…とまた俯くと深いため息が出た
「おまたせしました」
今聞こえるはずのない声が聞こえた
我も歳だな、思い募るあまり幻聴を…
「おぉ! ズ・ズミ殿…」
幻聴ではなかった
顔を上げると少し距離を置いてズミ殿が立っていた
腕を組み我を見下ろす彼の表情は呆れ顔だ
「絶対に来ないと思っておったのに…。明日の準備があったのでは?」
「そんなものこのズミにかかればすぐに処理できます。
…貴方こそ、自分でなかった事にと言っておきながら何故来ない相手を待っているのです?」
確かに自分でなかった事にと言った、
「それは――…ただただ我が女々しいだけである。」
ズミ殿の言う通りここから帰ることができなかった自身がいる
騎士として恥ずかしいが、誤魔化すことはもっと惨めだろうから受け入れるほかない
来てくれはしないかと、思っていたのだろう
「ガンピさん」
「な、なんであるか」
ズミ殿が近づいてきたため、彫刻より立ち上がり対面する
「最近貴方を避けるような行動を取り申し訳ありません。
わたし自身いろいろ思うところがありまして。」
「そ、そうであるか。」
「覚悟ができたので、この機会に伝えさせてただきますね。」
いろいろ思うところ… 我は何をしてしまったのだろうか
こちらより思い伝える前に切り捨てられるのであろうか…
恐怖に慄きながら、それでも普段より僅かばかり柔らかいズミ殿の表情に目を奪われる
「ガンピさん、好きです
同僚としてではなく、良き友人としてでもなく…
貴方のことが好きなのです。」
「………え?」
聞き間違い…?
まっすぐにズミ殿が我を見ながら…
「――嫌ですか?」
「嫌ではない!!決して!!決してそんなことはない!!
そうではなく、そ、その言葉は我が今日其方に伝えようとしていた言葉で
決して其方よりもらえるなどとは思ってもいなかった言葉であるからして、その…」
「ぷっ…。ふふ…、落ち着いてください。」
また心臓が早鐘のように打ち、考えがまとまらない
そんな落ち着きなく慌てている我を見てズミ殿が噴出した
我それどころではないのに!!
「落ち着いてなどいられるだろうか!ズミ殿が我に好意を寄せている…など…と………」
自身で口に出しながら、とても重大なことをズミ殿に告げられたのだと、やっと実感してきた
というか、え? 我今告白されたの? ズミ殿に!?
「お付き合いいただけるということでよろしいですか?」
自覚できるほど顔が熱くなっている。
「――うむ。…よろしく頼むのである。」
ズミ殿といると恥ずかしいところばかり見られてしまう。
「ガンピさん、貴方、真っ赤ですね。」
「し、仕方ないのである。」
真っ赤な我の顔を見て、ズミ殿がまた小さく笑った。