問題:星が流れる理由を答えなさい
「は?…知らん。それはお前の領分だろう?」
「ふふ。そりゃあ私の好きな分野だけど…。
そうじゃない側からするとどんな風に考えているのか気になるじゃない?」
凍った空に頬に刺さる風
冬の空を見上げながら、ゆっくり肩を並べて歩く。
アンの一歩後ろをロジーが杖をついて歩いている。
その速度はロジーに合わせ緩やかだ。
「分野違いだと思う。でも、とても興味深いと思う。どう?」
「……少し考える。」
顎のあたりまで厳重に巻いたマフラーに顔の下半分をうずめて、
ロジーが難しい顔をして道の先を睨む。
考え事をしている彼のしかめっ面を満足そうに眺めてアンは視線を夜空へ上げる。
吐く息は白く、ふわっと広がっては夜の闇に溶けて流れていく。
銀河鉄道の研究旅行帰りに迎えに来てくれたロジーとの帰り道。
ロジーの研究所へ向かっているが、人を避けた主のごとく道の舗装もまばらだ。
冷気の落ちる道に、二人の足音が響く。
「ぅう…こっちは寒い」
駅舎を出る前にもう少し着こめばよかったとコートの襟を立て肩を震わせながら、
アンがちらとロジーを見ると、まだ難しい顔のまま前を見つめている。
真面目に考えてもらっていることに、彼の生真面目さをまじまじと感じてしらず口角が上がる。
「何笑っているんだ。真面目に考えているのに。」
「ごめんなさい。嬉しくって。」
「?相変わらずお前はよくわからんな。」
むすっとして顔のしかめ具合を深くして、またマフラーに顔をうずめる。
「(これは結構時間がかかりそう…)」
気まぐれの質問を懸命に考えてくれる彼にやはり顔が緩むのを自覚しながら
せかすのも悪いと視線を夜空へうつし、見える星座を数え、その星の名前を思い出し
銀河鉄道で旅したその星々の思い出を考えて小さくハミングを奏でた。
思い返せばこうして比較的短い期間でここへ帰ってくるようになるまで彼とは随分長い間離れていたものだ。
「おい。」
「なに?考え付いた?」
「ああ。」
気付けば少し後ろを歩ていたロジーが横に並ぶまで立ち止まる。
「それで、どんな?」
「笑うなよ。」
「約束はできないけど、努力します。」
アンの返答に眉間のしわが深くなり、答えてもらえないかもしれないとアンが繕おうとしたとき
「……置いて行かれるかもしれないからだ。」
「え?何に?」
深く聞くつもりのない質問だったというのに、予想だにしない答えに思わず質問を向ける。
ロジーは眉間のしわは深いまま、ゆっくりと言葉を続ける。
「自分以外の何もかもにだ。時間は等しく流れる、自分だけ変わらず動かずいることはできないだろう。」
ぽかんとして立ち止まってしまったアンに、ロジーは小さくうなると彼女を置いて歩き出した。
数メートルと距離があいて姿が闇に溶けてしまいそうな距離になても歩みを再開しないアンに
流石にロジーが立ち止まって振り返る。
「おい――」
「ありがとう、兄さん!!」
そう乾いた空気に響き渡るほどの声を発し、アンが駆け足で近づいてきた。
「お前、なんで泣いてるんだ。何かしたか?」
「嬉しいから仕方ないの。気にしないで。」
ロジーから差し出されたハンカチで流れる雫を拭って二人は同じ速度で歩いていった。