『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。
登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。
この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。
Introduction
その男は音もなく頭上より襲い掛かり
獲物の首を切り裂いて去っていく
残るのは崩れ落ちる獲物と広がる血だまりだけ
陽が天頂に差し掛かる頃、郊外の寂れたアパートの玄関フロアで、女主人と青年が話をしていた。カウンターの内側で新聞に視線を落とす女主人に対し、青年がカウンターに乗り出すようにして熱心に話しかけている。
「屋根裏の部屋空いてるだろ? 住ませてくれよ。窓が大きくって部屋の中明るそうだし、家賃少し高くてもいいからさ」
「断る」
こんなやり取りが何度も繰り返されているのである。
女主人はもう青年の方すら向かない。
「こんなボロアパートに住みたいやつが来たのに追い返すのかよ?」
「ボロで悪かったね、さっさと帰んな。餓鬼に用はない──ん?」
その時、アパートのドアが開かれた。
差し込む陽ざしで来訪者の影が室内へ浸食するように伸びる。ゆっくりと中に入ってきたのは長身細身でヘッドギアをつけた男。ぎょろっとした大きな目はその下の隈の所為でより大きく見え、右目の下から口を通り顎まで縦断する大きな縫い痕が目に付く。細い腕に大きく重量の有りそうな荷物を下げ、静かにカウンター内にいる女主人の前へ立った。自分に重なった男の影に女主人が男を見上げる。
「……借りるぞ」
「今回はいつまでだい?」
「ふた月」
「延びる時は教えとくれ」
男は手を伸ばし、女主人の背後に掛かっている空き室の鍵の中から天井裏の部屋の鍵を掴むと、カウンター脇にある階段へ足を向けた。
「な、なんだよお前、そこは俺が借りるんだ」
男の空気に呑まれていた青年が、我に返って階段を上ろうとした男の腕を掴んだ。男は足を止めたものの青年へ振り向きもしない。
「おいっ、無視すんな――っ」
青年が男の腕を引き寄せたと同時に男が青年に詰め寄った。背の高い男に無言で頭上から見下ろされる状況に青年が息をのむ。
「揉め事は困るんだけどねぇ!」
女主人の大きな声がフロアに響くと、男は青年の掴んだ手を振り払い階段を上って行った。男の足音が遠ざかった頃、青年が倒れるようにカウンターへもたれかかった。
「あ、アイツなんなんだよ」
「知らない方がいいこともあるのさ」
青年が体勢を整えようとカウンターへ手をかけると、そこに自分が訪れた時にはなかった物を見つけた。
「鳥の…羽?」
手のひらより大きな羽が一枚カウンターの上におかれていた。
「ああ、それかい。あれ目当ての客にここにいることを知らせるもんだよ。…わかったろう? あの部屋はあれ用の部屋なのさ」
「まさかアイツはア―」
「しぃっ。大きな声出すんじゃないよ。早く帰りな」
女主人が青年を睨んで諭すが、彼の目はどんどん見開かれ
「――すげぇ! あのアスを間近で見られたなんてよ!」
アパートに響きわたるほど大きな声をだしていた。
「はぁ…」
女主人がため息を吐くのと同時に、青年の横に黒い影が落下した。その瞬間青年の首から血が迸り、憧れにきらきらした光を宿した瞳は何が起きたか理解できぬまま床に崩れ落ち光を失った。
「…頼むから中ではやるなって何度も言っているだろう。片付けるこっちの身にもなっとくれ。アンタと違ってこっちは堅気なんだ」
微かに飛んできた飛沫を拭った女主人が、興味なさそうに青年を見下ろす先ほどの男を睨む。男の右手に装着された爪のような刃物から血が滴っており、男が階段の上から青年を襲った様だ。
「私が気にすることではないな。面倒になる前に掃除しておけ」
男は拳程の小袋を取り出すと女主人の前に置く。緩んだ袋の口から覗くのは金貨だ。
「……はぁ。分かったよ」
男が屋根裏部屋へ向かった後、女主人は青年だったものをどうしたものかを見下ろしていた。するとノックの音がし、背広を着た若者がドアを少し開いて顔をのぞかせた。
「よお、ここにアスが来るらしいって情報を聞いたんだ。仕事を頼みたい。取り計らってくれないか?」
玄関フロアには踏み入らず、入口から小声で女主人に話しかける。
「確かに居るが…陽が出ている間はダメだ。日没後に出直しな」
「急ぎなんだ──うわっ」
焦ったように若者が玄関フロアに滑り込んでくるが、床に横たわっている死体に思わず立ち止まる。
「それと一緒になりたくなければ出直すことをお勧めするよ?」
女主人が指さす死体を見て、若者が息をのむ。
「それを処分してくれるなら、今夜優先で会えるよう取り計らおう」
「わ、分かった。仲間を呼んでくる、ちょっと待っててくれ」
ばたばたと玄関から若者が外へ飛び出していく。
すぐに彼の仲間が来てこれを処分してくれるだろう。
「(はあ、今頃呑気に昼寝してんだろうねぇ)」
念のため入口の鍵をかけながら、女主人は深く息を吐いた。
End.