『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。
登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。
この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。
── アル・シャインと
レーヴ・ウェイクマンの遭遇
「はぁ、はぁ…死んでたまるか! これは渡さねぇ!」
今回の獲物は少し逃げ足が早いようだ
建物の隙間をぬって追う
……追いついた
「やめ――」
飛び掛かり喉を切り裂きながら、獲物の手から依頼された物を回収する。崩れ落ちた獲物から広がる血だまりと呼吸が止まった事を確認し、アル・シャインは依頼人の元へ急いだ。
富豪から受けた依頼は『目標の殺害とその所有物の回収』
依頼人から何かを盗み逃走した男には護衛もおらず、依頼をこなすのは簡単なものだった。そのまま完了の報告と回収した物の受け渡しをしに行くと『事細かに仕事内容の報告をしろ。そうしなければ報酬は出さない』とまで言われ、報告と質問攻めに遭いかなりの時間拘束された。普段仕事内容の説明など必要ない事も多く、長々と話すこと自体が少ない事もあって今回の依頼人にアルはかなり苛ついていた。殺してしまおうかとも思ったが、襲撃してくる輩をむやみに増やす必要もないと深く息を吐いて何とか思いとどまった。依頼自体は日付が変わってすぐに終わったというのに、依頼人の豪邸が塒から遠い事もあり塒の近くへ辿り着いたのは東の空が白みだした頃だった。
いつも以上に疲労感がまとわりついている重い体を動かして屋根裏の部屋へ向かう途中、妙な気配を感じ足をとめる。少し周囲の状況を窺ってから、音と気配を殺して塒である部屋のドアまで辿り着いた。ドアに開錠の痕跡はなく、ここまでの廊下や階段にも不審な点はなかった。だがドアの向こう、室内に何かの気配があることだけが分かる。このまま塒を変えてしまう事が一番安全なのだろうが今は何より休みたい気持ちが勝った。
念のために得物を構え、静かに鍵を開けてドアをくぐるが襲撃は無し。見渡すとベッド近くになにか人のような塊が見える。ベッド脇の窓が少し開いているのを見るにそこから忍び込んだようだ。窓にももちろん鍵はかけたはずだが……アルはもう考える事に疲れていた。
ベッド脇の丸まる小さな人影に気配を消して近づく。
動かない人影にどうしたものかと小さく息を吐いた瞬間、その身体が消え、顔に刃物を向けられていた。窓から差し込みだした朝日が部屋を照らし、よりしっかり相手の姿を確認することができた。
サンドベージュの髪と眼帯、手からのびる変わった形をした得物を見比べて、一人の同業者の名前が思い出された。
レーヴ・ウェイクマン
「なんだ、同業者か。私を消すよう誰かに雇われたのか?」
問いかけてもにへらと笑うだけで答えず、身体は揺れているのに向けられた刃先と視線は動かない。纏っている空気もふわふわと掴みどころがないのに向けられる切っ先は鋭い。凄腕だが変わり者と噂で聞いていたが、その通りの様だった。
「…隠れていたのか?」
問いかけにも彼はまた笑って揺れるだけで答えてはもらえないようだ。追手を振り切る為に誰のものか知れない部屋に身を潜めるのはアルにも経験がある。しかし住人が帰って来たというのに逃げ出さないという事は何か理由があるのだろう。
「……好きにすればいい。ただこの部屋の中では私の邪魔はするな」
向けられている刃ごと彼の手を押しのけ、着替えと体を拭く為に浴室へ向かう。向けた背中を襲ってくるかと思ったがそれもなく、着替えを終え戻るとベッド脇から部屋の隅へ移動し床に座り込んでいた。
特にその行動に触れるでもなくいつものように湯を沸かし、女主人から押し付けられた何かわからない茶を入れて一息つく。その間も部屋の隅から視線だけは刺さるが、特に動く気配はない。
茶を飲み終え、ベッドへ近づくとその中に身体を投げ出した。
ベッド脇の窓から差し込む日差しは高くなっておりじわじわと寝床を温めていく。
アル・シャインは暗殺を生業としている身で、陽の暖かさと温められたシーツ、そこで眠ることだけを楽しみに生きている。
昼寝はアルにとって最高の時間だ。
近づいてくる気配も無視してうつらうつらしていると、ベッドが重みで沈み込んだので流石に目を開く。
すると彼がこちらの顔を不思議そうに覗き込んでいた。
「邪魔をするなと言ったが?」
「したらなにかしてくれる?」
アルが黙って何も答えないでいると、彼は笑って手の刃物をアルの喉へ向けた。
「好きにしろ」
「どうして?」
「陽だまりで苦しまずに死ねるならな」
「よくわからない。あたたかいから死んでもいいの?」
「分かる必要はない。ただお前も暗殺を生業とするなら一撃で殺れ」
分からないという表情で、すこし彼の刃物が喉から下がる。
「もう一度言う、好きにしろ。私は寝る」
瞼を閉じ、しばし相手の動きに気を配るが刃物が喉に突き立てられる事はなかった。ベッドの上から重みが減るのを感じ、目を開けると彼はもうおらず、近くの窓が開いてきぃきぃと揺れていた。
End.