『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。

登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。

この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。


── 貸し

「(しくじったな…)」
生温かく濡れる腹部を押えて路地裏の物陰に身を潜める。手のひら大の金属の破片が刺さった箇所を抑えるがじわじわ溢れ出る液体は止まりそうにない。

今回引き受けた依頼の標的は面倒な相手の上に同業者だった。
爆薬を得意とし派手な事を好んだ相手は、様々な方面に敵を作っていた様だった。今回の仕事をアルに持ち掛けた斡旋屋の話では、かなり力のある政治家から直接依頼が持ち込まれたらしい。面倒な依頼として他の同業者に避けられていたものを引き受けたのは気まぐれというよりは斡旋屋の押しに負けたからだ。
今回の依頼を引き受けなければ、そもそもこんなことにはならなかっただろう。だが爆薬好き派手好きが追い詰められた時 自爆するかもしれないことを想定していたにもかかわらず、追い込まれても笑みを絶やさない相手に嫌な感覚を覚えていたにもかかわらず、逃げる素振りを見せる相手の息の根を止めるために近づいてしまった自分の行動が悔やまれて仕方がなかった。
どうにも気が抜けているとしか言いようのない状況に陥っているのは、今回の仕事を請け負う際に彼がいて動揺したからだろうか。そして、組んでもいないのに仕事に付いてこられたからだろうか。
件の彼は、標的を追い詰めた頃にはアルの近くからいなくなっていた為爆発に巻き込まれたのか気がかりだったが、今、特に怪我もなく目の前に現れた彼の姿を見てアルは小さく息をはいた。
「いたい?」
「──……見たとおりだ。追手が来る。ここから離れろ」
話しかけるが、彼、ウェイクマンは逃げる様子がない。爆発に伴って起きた火災で大通りから人の声が聞こえる。爆発の中心に近いこの辺りにもすぐに人が来るだろう。
「むしろお前が追手か?」
最悪の状況が脳裏をよぎり、睨むように問うも彼は答えなかった。いつもの笑い顔ではない不思議そうな顔をして私の顔を覗いている。
「(…寒い。血が流れすぎた…)」
元々低い体温が流れ落ちる液体と一緒に下がっていく。そろそろ意識を保つのが困難になってきた。
「アス、あんたはどんな夢を見るの?」
やっと口を開いた彼の急な問いに考えを巡らせる前に意識を手放していた。

目を覚ますと見覚えのある部屋に、血と薬品の臭い。
「やっと起きたか死に損ない!」
かけられた大声にアルが痛む身体を起こすと、いつも世話になっている老医師が豪快に笑いながら近づいてきた。
この人がいるということは――
身体を見下ろすと深い腹部の傷含め、身体中の擦り傷諸々の手当がされている。
「……何故?」
「お前の相方が半殺しにした情報屋引きずって呼びに来たのさ。俺の住処位、相方には教えておけよ。たまたま鉢合わせて半殺しにされた情報屋が俺を知ってたからよかったものの……」
「相方?」
「何言ってんだ、そこにいるだろ。お前が誰かと組むなんて珍しい」
老医師が顎でしゃくった先、アルが横たわる簡易のベッド脇で、薄い毛布の上に小さく丸まる姿を見つけた。初めて見た時と同じだ。
「組んではいない」
「そうなのか? にしては只事じゃない様子でここに押し入って来たんだが……まあ、感謝しろよ? 俺とそいつにな。もしあのままだったらお前、死んでたぞ」
「そう…だな」
「ああ、そうだ。きれた包帯やら買い足してくるから、留守番頼む」
「わかった」
出ていく老医師を見送ってから、痛む身体を動かし彼を見下ろすと軋んだベッドが微かにたてた音に起きたのか、そもそも眠っていなかったのか、彼がもぞもぞと身体を起こした。
「──動いてる」
「お前のお陰らしいなウェイクマン。なぜ助けた?」
「…あたたかいところが好き。だからあたたかい場所へ連れて行かなきゃいけない。俺も好きだし、あの場所ははんたいだった、赤くて痛くてあたたかいけど黒くて暗くてつめたくてつめたいから」
「……そう…か」
あの時私が言った事を覚えているのか、どうも彼の言葉はよく分からないが助けられたことは事実だ。
「大きな貸しだな」
私の言葉を聞いて、彼がにへらっと笑った。


End.

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