『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。

登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。

この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。


── 死人に口なし

「まっ──」
待ってくれ、と、おそらく紡がれたろう言葉を断ち切るように右手を引く。喉から血を迸らせながら相手が床に沈んでいくのを見下ろして、その命を摘み取った本人は眉間のしわを深くしていた。
殺しを主な生業にしている者として仕事が無いのも困るが、こうも奪うことを願う依頼の多い事にも少しばかりうすら寒さを感じる。通称アスと呼ばれる暗殺者 アル・シャインは路地裏の影に滑り込こみ、ここ最近の仕事の舞い込み様に深い息をついた。

依頼人は、殺害する目標の人物をアルと同業者だと言っていた。他の町で問題を起こし最近この街へ移ってきたばかりだと。何故この人間を殺さなければいけないのかと理由を問うのは信用問題が関わるためしないが、笑みを絶やさない依頼人に嫌な感覚を覚えたアルは、仕事の機会を探ることも併せて、目標の人物を観察することにした。
数日間目標の人物を尾行し観察していて感じ取ることができたのは、相手はいたって普通にこの街に移り住んできたまっとうな人間らしいということだった。
仕事を決行する前日、依頼人に目標は前情報と異なる一般人ではないかと確認したが、今はおとなしくしているだけでそれがあの男の仕事の仕方なのだと言われ、そうでないとはっきりさせられる証拠も見つけられていない状況では引き下がるしかなかった。

だがつい今しがた、奇襲し喉を掴んだ時に見せた相手の恐怖に凍りついた顔や、こちらの動きに反応できておらず反撃する思考すらなく身をよじる動きすらできない姿は、こういうことがいつかは自身に跳ね返ってくることを覚悟して仕事をしている同業者ではないと確信するには充分だった。
顔を顰めながら依頼人のもとへ急ぐアルは、ここ最近自身が感じていた嫌な感覚に関してぐるぐると思考をめぐらせていた。
最近街の動きがおかしいのだ。今回のように一般人が対象となる仕事が増えている。標的が誰だろうと報酬さえしっかり支払われれば目標がどんな人間だろうと別段構わないのがこの類の仕事を請け負っている人間の総意だろう。だがアル含め一部の裏稼業の人間がそうなのだが、一般人が標的の仕事は気が向かず請け負わない者もいる。
その手の仕事を避けていた所に今回の仕事だ。目標に関して嘘の情報を渡され仕事をする破目になった。依頼を受けてから期限までの期間が短かったとはいえ、それでも短い中で観察して違和感を拭えなかったにもかかわらず、これという確信を持てなかった、見抜けなかった自分自身にため息がもれるが、何より

「手のひらの上で転がされるのは、おもしろくない」

依頼人の男は、依頼が遂行されることも嘘の情報を与えられていたことに気付くこともわかっていたようで、屋敷の広間で笑ってアルを出迎えた。
「相手が誰だってキミ達には関係ないのでは? どうしたんです、只でさえ恐い顔を一層恐くして」
依頼人は交易を行う裕福な家の次男で仕事方面でのいい噂は聞いたことがなかったが、裏稼業とのつながりも聞かない男だった。アルがその男の顔に張り付いている笑みが不快と睨みつけても、目を細めて笑うだけだった。
「……私に嘘の情報を渡してまで、あの人間を殺させた理由を聞かせてほしくてな」
まだ血のついたままの、右手の爪に視線を落としてからアルが依頼人を見ると、男は驚いた様子で
「キミがそんな事を気にするんだ! なんとも興味深いっ! 教えてあげますよ。それは僕が死体を見たいからにきまっています! でも僕に人は殺せない。生憎お金には不自由していないので、プロにお願いしているんですよ。キミ達は簡単な相手の仕事が増える。簡単なのに報酬はたんまり。お互いに良い事だらけでしょう?」
「よくわかった」
アルが少し身を屈めたかと思うと、そのまま目の前の依頼人に素早く駆け寄り、左手でその喉を掴むと床に押し倒した。
「うぐっ──くる…し…」
男の体に片膝をのせ体重をかけて無言で見下ろすアルの威圧に男が息を飲むが、アルの持ち上げた右手に光る血濡れの爪を見ると激しく足をばたつかせだした。
「は、はなせ! 離してくれたらキミを殺すために雇った殺し屋たちへの依頼を取り消して──
「黙れ」

その裕福な男の死が報じられてから、街の裏家業の依頼内容は一般人が目標となる物が激減した。
しかしその余波から別の意味で裏稼業界隈がざわつくことになる。あの男の死から数日間、街の殺し屋が数人命を落としたり、怪我のため仕事を辞める事が重なったためだ。
裕福な男の死にアルが関わっているという噂が行きわたるのと同じ頃、そのざわつきもいつも通りに落ち着くことになる。


End.

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