『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。

登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。

この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。


── 取引

主犯格として取調室に閉じ込めた男は、椅子に座らず部屋の隅の壁にもたれている。
捕まえた時そのままに、主犯格の男 アル・シャインをこの部屋に入れる事が出来たのは七日程前だ。血まみれで本人もそれを拭わず、出せと喚くことも無い。机に運ぶわずかな食事は自白剤入りのものだけことごとく手を付けない。一日を壁にもたれて目を閉じて過ごす。大人しくしているように見えるが、ただ無駄な体力を消費したくないだけだろう。
取り調べの為何人かがこの部屋に入ったが、じっと大きな目を逸らさず真っ直ぐ見られ続ける威圧感と部屋に籠った腐臭で取り調べをする側の人間が耐えられず終わることが殆どだった。また威圧に腐臭に耐えられたとしても、彼が言葉を発しないために取り調べは進展しない状況が続いている。それに加え、相手を変えれば対応が変わるかと経験の浅い人間を向かわせると必ず脅す程度に暴れ、二度と入りたくないと思わせる様に仕向けてくる。この街の『有能』な刑事達は共犯者の取り調べに夢中で大人しい主犯格は後回しだ。ついには最近都会から赴任した刑事に取り調べの担当が回ってきた。
刑事が部屋に入り、椅子に座り机に資料を広げる。
「君がアル・シャインだね。アスと呼んだ方がいいかい?」
問いかけるが、問いかけられた側は閉じている瞼すら上げない。早ければ新人はこの時点で暴れられて部屋を出ることになるが、何も動かないところを見るに今回はこのまま取り調べが進められそうだ。
「アス、君がこの…我々がブラッディサニー猟奇殺人事件と呼ぶ事件の主犯格で間違いはないね」
猟奇殺人の部分で、彼の目が開かれ一瞬視線がこちらに向けられるが言葉を発することはなかった。
「わたしはまだこの街にきて日が浅くてね、君の事は詳しくは知らないのだけど、随分有名みたいだね。それに街の人間の殆どが、君がそんな事件を起こすはずがないと言うんだ、暗殺者の君に対してだよ。君が誰かに……例えば君が目障りな我々に嵌められた…という噂すら有るがどう思う?」
言葉を切って主犯格へ視線を向けても我関せずと微動だにしない。
「…ああ、そういえば共犯のウェイクマンに関してだが」
ここでぴくりと初めて男がこちらに顔を向ける。どの取り調べでも相方の名前には必ず反応している。
「この街の有能な刑事達が取調べをしているよ」
「…私の背後には誰もいない。それは共犯であっても同じだ。やった事実は明白なのに、これ以上何を調べる? 無いものは出てこない」
 刑事の言葉の選び方がよかったのか、初めてアルが口を開いた。
「そう、だから終わらない。きっと終わらせるつもりがないのだろうね。わたしには理解できないけれど、愉しんでいるんじゃないかな」
ガンッ
目の前にあった机が消え、大きな音を立て壁際でひっくり返った。
刑事が転がった机と反対側を見るとアル・シャインが繋がれていない方の足で机を蹴り飛ばしたようだ。今は滲み出る殺気も隠さず、椅子に座る刑事を見下ろしている。
「わたしはそれを終わらせたいんだと言ったら、君は協力してくれるかい? この取り調べをきっちり終わらせるだけでいいはずだ。現に上からは早くしろと催促も来ている。早くこんな奴ぶち込んで閉じ込めてしまえってね」
「――…ウェイクマンはどうなる?」
「彼は会ってみない事には分からないが、刑務所へ行くにしても君と一緒に移動させられるだろう。彼の場合は病院か悩むところだが、そこは私にはどうにもできない」
笑って立ち上がり机を元の位置に戻す刑事をアル・シャインの殺気だった視線が刺し続ける。床に散らばった資料を集めて一息つき、椅子へ座り直すと向かい側にアルが座っていた。
「お前が私にそれを提案する理由は?」
「君たちに正直興味はないよ。わたしがいた街ではこういう事件もよく起こっていたしね」
「では、なぜ?」
「ここをきれいにしたくてね」
刑事の言葉が理解できず、アルが顔をしかめる。
「実はわたしはここの次期所長として呼ばれたんだ」
刑事が頬杖を突き、入ってきたドアの方を見ながら笑う。
「この癖のある街を知らないままでは上に立てないからという要らない好意で今はこうして君とも話している。本当は街から君のような人間を排除したいところだが……それは到底かなわないだろう。なにせ多すぎるからね。だがここはちがう。ここを、わたしが、正義を執行する高貴な場所に変えてみせる!」
拳を握り声を大きくする刑事をアルは冷めた目で見つめる。
「――…できるといいな」
「ああ、だから君も早く刑務所に送らないといけないんだ! 全て排除することはできなくても、一人でも少ない方がいいからね。さ、取り調べを始めよう」

取調べの内容が良かったのか『ブラッディサニー猟奇殺人事件』は裁判無しに実行犯の無期懲役で刑務所送りが決まった。

その決定から数週間後、移動を待つアルの耳にあの刑事が失踪したという話が入った。誘拐ではないか殺されたのではないかと噂が流れたが、死体は見つかることはなかった為 真意のほどは知れない

End.

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