ウラウラ島の昼下がり。
ポー交番付近は、珍しく晴れて陽がさんさんと降り注いでいる。交番の横…影になる場所で、木箱にぼけっと座っているクチナシに、アセロラがにこにこしながら近づいてきた。
「おじさん、どしたの?ぼーっとして」
「んあ?…ぼーっとしてんのはいつもだろ?」
「そんなことよりさ、バトルしよっ!バトル!!練習につきあってよ!暇でしょ!」
「昨日も散々やったろ。今日くらい休ませてくれよ。おじさん疲れてるんだよ。たまには休みたいんだがなぁ…」
「だって昨日は雨だったもん。今日は晴れてるからいいじゃない?それにいっつも休んでるでしょ」
「理由が意味わかんねぇし、ひどい言われようだな…」
「ともかく、Z技試したいの、お願い」
「一回だけだからな」
ズボンの尻をぱんぱんとはらいながら気だるそうに立ち上がるクチナシの目は言葉とは裏腹に楽しそうで、
その顔を見たアセロラはにかっと笑った。
「今日はここら辺にしとくか」
「うん。つっかれたーみんなありがとー」
結局アセロラが疲れたと言うのと、練習相手に頑張ってもらったクチナシの手持ちたちが疲れるまで付き合ってしまった。交番の中からおいしい水のボトルを2本持ってきたクチナシが、アセロラと並んで始めに座っていた木箱に腰をおろす。
「今日のおじさん、バトルに集中してなかったよ?」
「そんなことないさ」
手渡されたおいしい水のボトルを開けごくっと飲む少女の少し不満げな視線を避けるように、クチナシの目は空をあおぐ。
「絶対他事考えてた!ーーーあ!好きな人でもできたの!?恋患いってやつなんでしょ?絶対にそうだ!!」
「誰だよお前に変なこと吹き込んだの」
「そんなこと別にいいじゃん。で、教えて、教えてよ。どんな人なの?」
うきうきと目を輝かせて迫るアセロラに、クチナシがどんどん木箱の端に追いやられていく。
「……そんなんじゃねぇって」
「じゃあどんなことなの?」
暫しアセロラとにらめっこした後、頭の後ろをがしがしかいてクチナシが渋々口を開いた。
「そうだなぁ…、あまりにでかすぎて…いつも近くに居るように感じて…すっげぇ怖ぇって話と、存在を感じちまうほど囚われている恐怖にはやっぱ耐えられねぇな…って話なだけさ」
「………ねぇ、おじさんそれって…ーー!?」
アセロラの言葉を切るようにクチナシが立ち上がる。
「…この話は終わりだ。飯でも食べに行くか?」
「う、うんっ、行く!」
さっさと歩き出してしまったクチナシをアセロラは慌てて追いかける。
「(それって、やっぱり恋患いじゃん)」
言葉には出さず心の中だけでぼやいて、前を行くすこし猫背の背中を見てアセロラは笑うのだった。