『ブラッディサニー組』とは。
Twitterの診断メーカーの診断結果をもとに始まった、
はちすさん(@hati_su8)との共同創作です。
登場人物であるアル・シャインに関してはこちら
相方として登場するレーヴ・ウェイクマンさんは、はちすさん(@hati_su8)の創作されたキャラクターです。
この小話は2021年9月に発行したまとめ本「BLOODY SUNNY From 2015 to 2021」のweb掲載版となります。
掲載順も本と同様となります。
── 赤い糸なんて可愛らしいものでなく
「はぁ、はぁ」
いつもであれば逃走の際に息が切れることなどない。
「あそこだ! 逃がすな!」
「ちっ…」
動揺から無駄な動きが多いのだろう。中々追っ手を撒くことができない事にいらだちを隠せない。屋根を塀を影から影へ隠れるように移動しているアルの肩には何かが担がれていた。
「…ごめん」
「まだ撒ききれていない。しっかり捕まっていろ」
背中から聞こえる謝罪の声に努めて抑えて声を掛ける。
肩に担いているのは相方レーヴの細く軽い身体だ。だがその右足首には有刺鉄線の様なものが絡みついており、鉄線の先はアルの左足につながっている。棘が刺さったのだろう相方の足からは血が滲み滴っている。一方アルは足の装備が幸いしたのか、食い込みはしているものの走ることに影響は少ないようだ。
鉄線は逃走経路に張られた罠によるものだ。追手を撒きながら逃げる途中、屋根から飛び降りた着地点に仕掛けられていたもので、どうやら経路を読まれていたらしい。二人三脚なんて悠長なことはしていられず、傷の具合からレーヴを担いで逃走することにした。
「レーヴ」
「何?」
「お前が知らない奴の処に逃げ込む。絡まっているから無理だとは思うが、大人しくしていろ」
「…わかった」
予定していた経路を逸れ街の中に入り込んでいく。経路を逸れたことで追っ手の数が減ったように感じるが安心はできない。
蔦の絡まる古びた建物の鍵のかかった窓を片手で器用に開けると、アルはそのままレーヴを担いで中に滑り込み、開けた窓を元にもどす。するとしばらくしてがざがざと数人が走っていく音が聞こえ、思っていたより追い詰められていた事に深く息を吐いた。
中は薄暗く、蝋燭がところどころに灯っているだけだった。古びた本棚にならぶ同じく古びた書物たち。他の棚には様々な植物や穀物、鉱物の入った瓶が並んでいる。あまり使われていないのか、ソファには埃が積もっていた。
「ア、アル、ここ何?」
「説明は後だ。我慢してくれ」
薬草なのか香なのか部屋には何とも言えない嗅ぎ慣れない香りが漂っていた。顔を顰めたままアルが部屋のドアへ向かうと、ドアノブに手をかける前にドアが誰かによって開けられた。アルが咄嗟に後退するが、ドアの向こう側にいた人物を認めるとその身体から微かに力を抜いた。
「……物音がしたと思ったら、珍しいこともあるもんだ。アンタがうちに来るなんてね」
「悪いがちょっと世話になる。明るくなったら行く」
「そうかい。アスの頼みとあっちゃ断れないねぇ」
入ってきたのはくたびれたローブをまとった老婆だった。髪は白く長く、片側で三つ編みにして胸のあたりに垂らしていた。
「アル、降りたい」
「すまん」
担いでいた相棒をしばらくぶりの床に下ろしてやると、睡魔に襲われたのかふらついてアルに支えられる形になった。
「このひと、だれ?」
「…名前は私も知らない。安心しろ、盲人だ。顔は見られていない」
下りてきている瞼を懸命に上げながらのレーヴの問いに、アルが微かに笑って答える。
「知る必要のないことは教えないことにしているんだよ、坊や。アスがちゃぁんとあたしを見張ってくれるから安心してお休み」
「うん…」
寝ぼけているのか、老婆の言葉にレーヴの瞼が閉じきって身体が弛緩し、アルにまた抱えられることになった。
「この部屋を借りるぞ」
「ああ、そういう巡りなんだろうさ。好きにお使い。出て行くときに挨拶はいらないからね」
ソファの埃をはらいレーヴを横たえていると、ドアから出て行こうとした老婆の足音が止まったのでアルが老婆へ視線を向ける。
「どうした?」
「いや…。アスもやっと巡り合えたんだと思ってね」
「どういうことだ?」
アルの問いかけに答えず、老婆は怪しく笑うと部屋を後にした。
残されたアルが気を取り直して鉄線を切断するか、何とか解けはしないかと近くの蝋燭を手に取ってそれぞれの足を見ると、アルの足からも血が滲んでおり、血の伝う鉄線は赤く染まっていた。
End.